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大奥〜第一章〜のtubameのレビュー・感想・評価

大奥〜第一章〜(2004年製作のドラマ)
4.4
大奥の黎明期を描く、フジテレビ版大奥の第2弾。続けて配信で再視聴。
こちらも面白かった!春日局という日本史屈指の女傑が主人公なだけあって物語の完成度は前作を上回っている。


前半は家光の乳母となったおふくと家光の生母・お江与(江)との対立、後半春日局となったおふくと家光の側室になったお万との対立を軸に展開する。
通常の大奥は女性の物語なので男性の登場人物が多い前半はとても新鮮だった。家康・秀忠・阿茶局などが勢揃いしていると普通の歴史ドラマと変わらない。苦難を乗り越え家光を将軍に盛り立てるおふくを松下由樹が好演。お江与が高島礼子で、二人が対峙する場面は演技巧者同士ゆえ見応えがある。

母の愛を求める家光と、実の子と縁が経たれたおふくの疑似親子の関係は切なく、胸を打った。お江与が眉目秀麗で才気ある弟を溺愛し家光を冷遇した(吃音があり内気だったとか)のは史実通りながら、とても血を分けた実の子に対する態度とは思えず本当に家光が可哀想で仕方なかった。後の弟・秀長の顛末を思うと、禍根を残すようなことをするのは本当良くないなとつくづく思う...。

おふくは後半なかなかの辣腕を振るうので冷静に考えたら家光も注意しなよ案件だけど、唯一自分を大事にしてくれた彼女に強く出れないのであろうことを前半の展開によって納得させられる。


後半も引き続きおふく、もとい春日局が主役ながら、春日局が家光のためにとエスカレートしていくのに対して対立相手のお万(瀬戸朝香)がどこまでも清廉で優しいため自然と彼女に肩入れしてしまう。大奥の女性たちから慕われるのもむべなるかな。
家光とのなかなか上手くいきそうでいかない関係も見どころの一つ。幼少期から母とおふくのバチバチを見て育った家光が菩薩のようなお万に惹かれるのは当然なのかもしれないが、尼さんを強引に還俗させ側室にするというのはまあエグいよな...

本作の家光は不器用で自分の気持ちを素直に伝えることができない上様。それが事態を拗らせたりするのだけど、その人間関係の下手くそな感じが共感出来て個人的に友達になりたい上様No.1。一緒に飲んで「ワシはお万のことが好きなんじゃ」と酔ってくだを巻く家光を隣で励ましたい。西島秀俊が演じており見た目こそカッコいいものの、前半は目が死んでて精気が全然なかった家光の目が後半どんどん輝いていったことも印象的だった。応援したくなる上様...


この度の視聴で地味にいいな~と思ったのは魚売りから側室になったお夏(野波真帆)。
環境が違い過ぎて家光やお万の苦悩なんて全然思い至らない謂わば視野が狭い単純な人なんだけども、目の前のことに必死な姿が憎めない愛らしさがあるなあと思った。上様から面白いおなご認定されるのも分かる(でもそんな彼女にも辛さがあるということを見抜くお万様はやはり凄い)。


大奥と言えば愛憎劇というイメージだが、本作はお万の優しく周囲に一目置かれる人柄もあってか女同士の陰湿さが全然なくかなり観易いのも良い。
それぞれの事情を抱えて大奥という牢獄にやってきた女性たちの人生の悲喜交々が中心で、やがてはお万を中心に女性たちが連帯感を持っていくのが清々しい。ラストの展開なんて互いを思い遣り支え合うシスターフッドって感じでとても好きだ。幸も不幸も皆で抱き締めて生きていく決意を持った女性たちが美しい。
最終回前の10話から激流が流れ込んでくるかのような怒涛の展開なんだけど、後半パートでは半ば悪役じみていた春日局も大奥を大切に想う女性の一人として最後には浄化され、さすがと思わされる貫禄で場を去っていくのがお見事という他ない。
本作のストーリーテラーである、お万を追ってやってきたお玉も存在感を見せるラストなのもニヤリとさせられた(綱吉の母として後に大奥で絶大な権力を誇る)。 


歴史ドラマとしても、エンタメとしても、恋愛ドラマとしても楽しめた時間だった。
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