ジェイコブ

父と息子の地下アイドルのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

父と息子の地下アイドル(2020年製作のドラマ)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

高校教師の千堂は、何事も全力で取り組むことこそが美徳と考える、昔ながらの熱血体質。しかし、今時の達観したような生徒達からは冷ややかな目で見られることも多く、世代間の認識のズレにヤキモキする每日。また、プライベートでは妻に先立たれ、バンドをやるといって家を飛び出した一人息子カツキとの関係は疎遠なままで、孤独を抱えていた。そんなある日、職場にカツキが交通事故に遭い、重体であると連絡が入る。医師からカツキがいつ意識を取り戻すか分からないと告げられ、今まで逃げ続けてきた息子との関係を見直す千堂だったが、息子がプロデューサーをやっている地下アイドル「オトメガタリ」が病室に駆けつけてくる。そこには、自分の教え子であるシーナの姿があった……。
WOWOW制作の短編ドラマ。今までアイドルを描いたドラマは数多くあるが、本作は親子の絆に主軸を置いている。安定を第一に考え、バンドをやると言って家を出た息子と疎遠になった千堂が、息子が事故で意識不明の重体になったことをきっかけに、これまで息子から逃げ続けたことでできた空白の時間を埋めていく物語。「アイドル」を通して、今の若い世代への認識を改め、夢に向かって突き進む若者を応援する千堂の変化には、感情を揺さぶられる。
千堂を演じるのは「孤独のグルメ」でおなじみの松重豊、千堂の息子カツキがプロデューサーを務めるアイドル「オトメガタリ」のリーダー的存在のシーナを元乃木坂46の若月佑美が演じている。中でも松重さんが見様見真似でヲタ芸をする姿を見られただけでも、このドラマを見てよかったと思えるほどの名場面笑(元乃木坂の子がまるで千円で自分から写真を押し売りに行く姿も中々……笑) ※作中に登場したFES☆TIVE、はちみつロケットは実在するアイドルグループである。
かつて高橋みなみがAKBのリーダーだった頃、「努力は報われる」「全力で頑張る」を美辞麗句として、AKBの熱血的空気を作り上げた。しかしそれは初期メンバーの卒業、AKB人気の凋落と共に変わっていき、今ではその空気が微塵も感じられない。それはかつて、AKB人気の要因の一つであった、泥に塗れながら頑張る姿を美しいとする風潮は世間だけでなく、アイドルファンにすら受けなくなってしまったからだろう(作中のオトメガタリのメンバー間に漂っている意識の差はある意味、現在のアイドル界を象徴していると言える)
吉田豪氏が常日頃言っているように、地下アイドルは決して綺麗な世界ではないし、アイドルになるのであれば事務所が大きくてしっかりした所でなければならないと言われている。それでも、アイドル誰もが乃木坂やももクロになれる訳ではなく、ブームの終焉と共に、アイドルの数は減っていっているのが現状だ。作中、シーナがオトメガタリを離れ、大手事務所の引き抜きの話を受けるが、それは輝ける瞬間、機会が限られているアイドルという職業の宿命を理解しているからに他ならない。
アイドルに興味がある人、全く興味がない人にもオススメできるドラマだが、オトメガタリが人気になる過程をもう少し丁寧に描いてほしかった。もっとネットでバズらせるためにアイデアを出し合って工夫したシーンや、徐々に観客動員が増えていったシーンを入れるなどしないと、始めは数人しかファンのいなかったグループだったのが、あっという間に人気になるというご都合主義の印象を受けてしまう。