長内那由多

ハリウッドの長内那由多のレビュー・感想・評価

ハリウッド(2020年製作のドラマ)
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E1
戦後間もない旧き良き聖林を描くが、ライアン・マーフィー作品となればゲイカルチャーを中心としたアンダーグラウンドを描く事になりそう(でも筆致は軽やか)。

E2
ダレン・クリスにローラ・ハリアー、サマラ・ウィービングと役者が揃う。ハリウッドにおける人種差別、搾取構造に挑む脚本は詰め込み過ぎな感もあるが、華やかな50sの風景と映画作りに挑む若者達の姿は否応なしにワクワクさせられる。楽しい。

当時のハリウッドスターや監督達が次々と登場する。第2話ではハリウッド初の中国系アメリカ人女優アンナ・メイ・ウォンが人種を理由にパール・バック原作『大地』の主演を逃す。本作をきっかけに逆引きして過去の作品を探してみたいのだが、当然こんなクラシックはnetflixに置いてないよね…。

E3
ワクワクするオープニングだが、有名なハリウッド看板の裏側しか撮らない。
『ダラスバイヤーズ・クラブ』冒頭、ゲイを公表して亡くなった事が言及されるロック・ハドソンが、ここでは新人俳優として登場。ほとんどハドソン版『ジュディ虹の彼方に』といった展開で、痛ましい。

E4
若手陣のフレッシュさもなかなかだが、脇を固めるベテラン陣がいい。スタジオオーナー役のパティ・ルポーンやプロデューサー役ジョー・マンテロ(特に第3話は名演!)、映画だけ見ていてはなかなか巡り会えない名優を発見するのも海外ドラマの楽しみの1つである。

E5
業界の搾取構造を訴える社会派の面とファンタジー、映画に賭ける若者達と自らの人生を決算させようとする老人達、という異なるベクトルが同時に存在し、それらが相乗効果に至らない歯がゆさはあるものの、いずれの面も多彩なライアン・マーフィーの作風であり、ユニークである。


それにしてもジョー・マンテロ、ホランド・テイラーが素晴らしかった。彼らの想いのすれ違いに泣かされた。人生の終盤にさし掛かった年齢の人々をこんなに前面に押し出した作品も珍しいのではないか。

完走
これはタランティーノ映画のような“歴史改変モノ”だ。ドラマは主人公達の映画が1947年のアカデミー賞を席巻し、“ハリウッドエンディング”を迎える。アジア系、黒人、ゲイがオスカーを獲得し、アメリカの歴史を73年も早く変える。映画は世界を変える事ができる!

こうなるとアメリカ映画史は現在の形にならなかったのでは?と思うが、それでも後の赤狩りは避け難かったかも知れない。等々、色んなifが頭を巡って楽しかった。劇中ではロック・ハドソンはじめアンナ・メイ・ウォン、ハティ・マクダニエルなど時代に翻弄された先駆者達に再び花道を歩かせている。

終わってみれば若手よりも夢に生きるシニア達を演じたベテラン陣の方に断然見せ場があった。特に終盤、7~8話は泣かせる場面の連続。酒脱なディラン・マクダーモットがイイ。スタジオオーナー役はロブ・ライナー。俳優監督とは知っていたが、フツーに巧くてビックリ。
長内那由多

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