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呪怨:呪いの家の消費者のネタバレレビュー・内容・結末

呪怨:呪いの家(2020年製作のドラマ)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

・あらすじ
夫、佐伯剛雄の手で惨殺された妻子、伽椰子と俊雄
2人の死後に剛雄もまた命を断ち事件は幕を閉じた
しかし強烈な怨念を持った伽椰子と俊雄は死の現場である家に憑き続け、そこに関わった者達は長きに渡って奇妙な死を遂げていく…
という設定で好評を博した映画「呪怨」シリーズ
それはただの創作ではなく元となったいくつかの事件が存在していた
その事件の取材を続けて来た心霊研究家、小田島泰男
彼の口から“呪いの家”の周辺で実際に起きた映画よりも恐ろしいという数々の出来事が紐解かれていく…
という設定の映画シリーズ、「呪怨」の初ドラマ化となる短編シリーズ

・感想
「呪怨」シリーズの元ネタとなったある家の周辺で相次いだ奇妙な殺人や失踪などの出来事の回顧録という設定で描かれた作品という事もあり、本作では伽椰子も俊雄も登場しない
それでも初っ端から伽椰子と俊雄にあたる存在をがっつり見せたりする事なく怪異や悲劇を小出しにしながらじわじわと不気味さを醸成していくJホラーらしい世界観は結構良かった

タレント、本庄はるかが1人暮らししていた部屋での足音と不気味な声に始まり、転校先のクラスメイト2人の計略で片割れの彼氏である雄大に犯された事による聖美の人生の破綻、結婚を考えていたはるかの恋人の哲也が新居を探して訪れた家の呪いを受けて死亡、幼女連続殺人事件の犯人であるMによる家の発見…
と胸糞展開と怪異や数多の死が上手く絡められていて前半はかなり惹き込まれた
特にレイプで何かが壊れた聖美の引き起こした雄大を利用しての母の殺害という展開はドロドロしててかなり良い
母が部屋に連れ込んでセックスしていた担任教師のコンドームを使った証拠隠滅にもゾクゾクした
そういった恐ろしい展開の合間に挟まれる現実に起きた事件や災害の報道が織り交ぜられる事による生々しさの演出も倫理的に引っかかる部分はありつつも効果的だったと思う

人生が崩壊し、転落する一方の聖美の暮らしも容赦なくフィクション性を薄れさせる要素として上手く機能していて、これがあったからこそ派手な怪異や呪いの描写が無くとも成立していたと言える
その聖美を演じた里々佳ちゃんもモデルやグラビア、元地下アイドルというイメージが強かったけど芝居がなかなか良くて印象が変わった
小田島が過去の記憶を取り戻し始めたあたりからモノクロで描かれる過去の幻影と現在が混じり合っていく描写も時系列に複雑さをもたらしつつも面白い

鑑賞中は正直言うと直接的な心霊描写の少なさに物足りなさを感じていたものの、振り返ってみると逆に瘴気にあてられたかの様に人々が繰り広げていく血生臭い事件の描写を通して背後に壮絶な呪いを感じさせていく様は「リング」シリーズの初期作品にも通づる様なJホラーの源流への回帰と新たな活路の追求としてかなり優秀だったかもしれない
そしてその緻密に間接的描写を通して生み出されていく恐怖はオリジナルの映画シリーズと違って分かりやすい脅威として伽椰子と俊雄にあたる存在が描かれなかった事に由来する部分もあるだろう
それに繋がる事として呪いの被害者となり幻影と化した人々が危害を加えるでもなくただ佇んでいるかの様に描かれていた点も秀逸

数少ない直接的な恐怖描写の中で最も怖かったのはかつての殺人事件の被害者である母子の霊ではなく妻殺しの男、真崎圭一が遺体から摘出するも後に息絶えて呪いの家の庭に埋められた胎児の亡霊
羊水や脂、血がまだ付着しているかの様なドロドロした感触が生々しく残る姿で真崎に襲い掛かる場面はとにかく気持ち悪くておどろおどろしい良い画だった

激しい怪異や心霊の描写に頼らず恐怖を植え付けていく作風は「残穢」と似た物を感じた
トラウマを残しにかかるホラー作品とはまた違って後味の悪い出来事を重ねて鑑賞者に闇を染み込ませていく様なスタイルはJホラー由来の直接的な心霊描写のお株が他のアジア諸国に奪われつつある現在において日本が探求すべき方向性の一つなのかもしれない
そう考えると「残穢」も個人的には鑑賞時にその直接的な怖さの少なさもあって最初は怖さがあまり感じられなかったけど、色々とホラー作品を見漁ってきて今作の鑑賞も経た今、見直したら結構怖いのかもしれないなぁ、と

鑑賞前は既に「呪怨」シリーズの「終わりの始まり」と「ザ・ファイナル」で女子高生、弥生として出演している黒島結菜が全くの別人として起用されている事などからどんな物かなぁ、と思っていたものの実際に観てみるとそんな事が全く気にならないほど別物でありながら設定を継承していてなかなかの出来だったという印象
天真爛漫で快活な役柄を演じる事が多く重たさや暗さのある作品とは合わない、と言われがちな彼女だけど今作を観るとストーリーさえちゃんとしてればそんな事もないんじゃないかな、と
サスペンスでもありスリラーでもありバイオレンスでもありホラーでもある、そんな多様な要素を詰め込みつつも上手くまとまった良作だった
エンディングではその黒島結菜演じる本庄はるかが呪いの発端となった監禁事件の犯人の霊に連れ去られていたけどそれは結末として不完全燃焼感は否めないので出来れば続編を製作して欲しいかなぁ…
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