長内那由多

クイーンズ・ギャンビットの長内那由多のレビュー・感想・評価

クイーンズ・ギャンビット(2020年製作のドラマ)
5.0
少女の“覚醒”を描く第1話。天涯孤独の主人公ベスが9才でチェスの才能を開花させる一方、薬物にも依存していく。彼女にチェスを教えるビル・キャンプが絶品。パンクな表情を見せる子役も素晴らしい。傑作『ゴッドレス』のスコット・フランク監督は名匠の風格。

反抗心に満ちた少女がチェスの才能に目覚め、片っ端から大人達を打ち負かしていく様が燃える。原作は『ハスラー』のウォルター・テヴィス。チェスの定石を冠した各話タイトルも格好良く、最終回はずばり『エンドゲーム』!

E2、いよいよアニャ・テイラー・ジョイが登場。チェスと勝利に憑りつかれた少女の内面を描く演出も際立つ(意中の相手との対局後に初潮!)。撮影は『ゴッドレス』でNetflix史上随一の映像美を見せたスティーヴン・メイズラーが担当している。

E3→ヒロインの養母を演じるのが『幸せへのまわり道』『ある女流作家の罪と罰』を監督したマリエル・ヘラー。繊細な人間ドラマを演出できる人ならではの巧者ぶり。人生に敗北した養母と初めて敗戦を喫したヒロインの間に芽生える絆がいい。

E4まで。演出、脚本、撮影、演技が揃った2020年ベストの1本。『ベター・コール・ソウル』以来の充実かも知れない。アニャ・テイラー・ジョイのファンは3食抜いてでも見るように。E4ではついにソ連チャンピオンとの初対決。「彼女は孤児だ。我々と同じで、負ける選択肢がない」燃える!

E5→本作におけるチェスシーンは対決であり、対話であり、時には愛の交歓になる。ゲースロのジョジエンことトーマス・サングスターにいい味が出てきた。好敵手である彼との再戦が描かれる全米選手権はスプリットを多用し、ほとんどミュージカルになっている。

E6→男たちとの戦いでもある。精神を病んだ母(数学の天才であった事が伺える)は言う「男たちは教えたがる。あなたはあなたらしくいればいい」。自己愛の強い先輩プレーヤーのベニーを捨て、養父を撃退するも内なる悪魔であるボルコフには敵わず、アルコールに溺れる。

完走。ハリウッドブロックバスターが途絶えた2020年、見過ごされてきたナラティブの力を謳う充実の全7話。フィナーレは泣かせ所あり、メンタルイルも自由意思も盛り込み、テンションは『ゴッドレス』最終回級のボルテージ。アニャ・テイラー・ジョイ、揺るぎない代表作!

彼女には少女と大人、野性的ルックス、細長い手足とふくよかさといったフォトジェニックな魅力はもちろん、これまで『ウィッチ』『スプリット』『サラブレッド』などで見せてきた反逆者としてのパンクな魅力がある。ジョージ・ミラーが『マッドマックス』最新作の主演に抜擢したのも納得。
長内那由多

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