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すべてをあなたにのKKMXのレビュー・感想・評価

すべてをあなたに(1996年製作の映画)
4.5
 本作も前回の感想文で述べたファウンテインズ・オブ・ウェインの故アダム・シュレシンジャーが作曲に関与しているガーエー。60年代のアメリカを舞台にした、マージービート系のバンドの青春物語でした。本作はほろ苦ながらもなかなかの秀作だったと思います。個人的にこのほろ苦なノスタルジーとリヴ・タイラーの神懸ったキュートさ、主題歌の群を抜いた素晴らしさにより、特別印象に残るガーエーとなりました。


 片田舎の電気屋で働くガイはジャズ好きのドラマー。ひょんなことから地元のビートルズ憧れアマチュアバンドのヘルプでドラムを叩くことになります。代表曲のバラードをアップテンポで叩いたところ客に大ウケし、そのままガイはバンドに加入しました。
 バンドは『ワンダーズ』と名乗り、大ウケした曲『That Thing You Do』をレコーディングしてリリースしたところ飛ぶように売れる。やがて大手レーベルのプロデューサー・ホワイトがバンドをスカウトし、全米でブレイクしていく…というストーリーです。


 バンド初期のワクワクする感じや、大手と契約してからジェットコースターのようなレールに乗せられて次第にバンドが壊れていくプロセスも含めて、とてもリアルで誠実なバンド映画という印象です。何気にメンバーの描写が秀逸でした。ソングライターのジミーは本物のミュージシャンですが、ギターのレニーは女にモテたいだけの人であり、ベーシストに至ってはそもそもバンドを続けるつもりがなかった人でした(この人名前が与えられてない、ビル・ワイマン以下)。
 バンドってメンバーにそれぞれニーズがあるので、状況が変わるとその歪みが大きくなるんですよね。レニーはレールに乗ったことを楽しんでましたが、ジミーは自分の創造性を制限されているため苛立ちがハンパない。ジミーにはスーパー可愛い彼女フェイがいるのですが、音楽の方が大事なので、関係もどんどんうまくいかなくなっていく。前半のイケイケキラキラ描写が多幸感に満ちていたため、メジャー化してからの流れがシンドくて、その落差がリアルでとても良かったです。

 そして、その歪みを修正するつもりはなく、レールに乗ったバンドを走らせて、ダメになったら平然と捨てるプロデューサー・ホワイト。この辺のショービズのクソな感じがすごくよくわかる。
 90年代後半に友人が1曲だけメジャーデビューしてるんですよ。それまで友人はソニックユース風無調ギターと冷たい女性ボーカルを絡ませてポップかつメランコリックに仕上げるという超オリジナルな音楽をやってました。しかし、某大手レーベルと契約すると、いろいろと口出してきた結果、友人は毒にも薬にもならないキャンディポップを書かされて、それがデビュー曲となりました。そんな曲は当然注目されず、そのまま契約終了となりました。
 現在のYouTube花盛りの音楽シーンになる前は、こういうクソどもが闊歩していたワケですよ!もちろん、フィッシュマンズのディレクターのような傑物もいましたし、そういう人たちが90年代以降の日本のロックシーンを作り上げたと思いますが、やはり本作のホワイトのような輩もたくさんいたのは間違いない。マジでFxxk Off ですね!ホント、今はいい時代になりました!


 監督はトム・ハンクス。彼は元々音楽マニアらしいですね。愛情だけでなく、ビジネス面でのシビアさもしっかり描いていたと感じました。もっと監督やっても良さそうな出来です。
 あと、ヒロインのフェイを演じた若き日のリヴ・タイラーが激烈に可愛い!ちょっと尋常じゃないレベルの可愛いさ。役柄的にもめちゃくちゃいい子なので余計可愛く見えるのかもしれませんが、特別な輝きがありました。最近見ないけど何してるんでしょうね〜。


 さて、本作のタイトルでもありワンダーズ唯一のヒット曲『That Thing You Do』ですが、まぁ名曲ですよ。もちろんアダム・シュレジンジャーが作詞作曲!とりあえず聴いてくださいな。

【That Thing You Do / The Wonders】
https://youtu.be/VoYnzFt5PkM
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