一

VORTEX ヴォルテックスの一のレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
3.7
『アレックス』『クライマックス』のギャスパー・ノエ監督作品

認知症の妻と心臓病の夫が過ごす人生最期の日々を、画面分割映像による2つの視点で描く

これまでの作風とのギャップも含め、ハネケでいう『愛、アムール』的な位置づけの作品でもあり、想起せずにはいられないほど共通点も多い

ある意味淡泊であり冷徹な視点、過去作のようなアバンギャルドを求めるような映画ではなかったけれど、ノエの映画でここまでリアルで身近に感じられたのは初めてと思えるほどの異色作であり、紛れもなく新境地を切り開いた作品と言える

おなじみの赤みがかった色調はみられるものの、いつものような派手な演出はなく、冒頭のクレジットをみなければ本当にノエの映画なのかと疑ってしまうくらいの物静かなストーリー
それでいて、長回しで常に夫と妻を左右で分割し同時進行でスクリーンに写し続ける斬新な手法が、誰の身にも起こり得る目を背けたくなるような現実の残酷さに拍車をかける
しかし、あくまでも扇情的にはせずにドキュメンタリーと思わせるほどのリアリティ重視の巧みな演出が際立つ

この画面2分割というのは、前作『ルクス・エテルナ』でも使われてはいたけれど、対象が老夫婦に変わるだけでここまでがらりと見え方が変わるのかと感動すら覚える
それゆえ、基本的には動きも少なくゆったりと老夫婦を写し続ける150分の映画にもかかわらず、最後まで飽きさせないという計算された秀逸な作りもお見事

とにかく主演二人の演技力がすさまじく、本当に認知症を患ったような目の据わり方をしている妻役のフランソワーズ・ルブランは圧倒的にリアルで素晴らしかったし、なによりあのダリオ・アルジェントが主演を務めているのもいろいろと胸に来るものがあった

〈 Rotten Tomatoes 🍅93% 🍿74% 〉
〈 IMDb 7.4 / Metascore 82 / Letterboxd 3.9 〉

2023 劇場鑑賞 No.033
一