フィンランドの名匠 アキ・カウリスマキ監督作品
まず引退を撤回してくれてありがとうと心から言いたくなるほど愛に溢れた傑作
一目見ただけで作り手がわかってしまうような監督の作品には、ジャンルを問わず無条件に惹かれてしまうのだけど、その代表的ともいえる監督のひとりがカウリスマキ
もちろん本作も例外ではなく、ロシアウクライナ情勢への反戦的な姿勢を示しつつ、ドラマチックになるわけもなければ、淡々とうだつが上がらない無口で不器用で互いに名前すら知らない男女が、失業や酒に溺れるという前途多難な境遇にいながらも徐々に惹かれ合っていく
そんな過程の中に常にあるのはお決まりのシュールでオフビートな空気感
それでいてクスッと笑える愛のあるユーモアに溢れた独特の雰囲気は、誇張抜きで世界を平和にするほど観客をのみ込んでいく力を秘めていると思う
絵本のような温かな色彩をふんだんに使ったり、不思議と癖になる音楽も健在
ただし気持いつもより登場人物の表情が豊かに思えたのは気のせいだろうか
なによりカウリスマキは優しい
とにかく優しい
彼の映画の根幹にはいつもこの優しさがあるからやめられんのですわ
毎度話としては極めてシンプルでベッタベタなんだけど、この唯一無二の世界観に加え、誰にも真似のできない無駄をそぎ落とした魔法のような味わい深い演出の研ぎ澄まされ方に終始シビれっぱなしで、笑えるのになぜか泣けてくるシーンすらあった
劇的には一切せず、静かで淡々と僅か81分しかない映画にも関わらず、ここまで気持ちを揺さぶられる作品を作れるのが本当に凄すぎる
個人的には、満場一致でジャームッシュ唯一の失敗作と言える映画を見て喜んでいた彼女がかなりツボだったし、カウリスマキの愛犬?のわんちゃんはパルムドッグ賞に相応しほど圧倒的なパフォーマンスと可愛さだった
〈 Rotten Tomatoes 🍅98% 🍿79% 〉
〈 IMDb 7.6 / Metascore 87 / Letterboxd 3.8 〉
2023 劇場鑑賞 No.034