てっちゃん

VORTEX ヴォルテックスのてっちゃんのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
4.2
ギャスパー・ノエ監督さん作品!ってことで劇場へ向かいます。

前情報はなにも入れないで臨む”いつものスタイル”でしたが、狙ってやってやったぞ感が満載であるものの、ギャスパー・ノエさんの新たなステージとなる作品であったなと感じた次第です。

何がなんでも書かねばなのは、本作はスプリットスクリーンがこれでもか!ってほど使われます。
しかもその使い方がすげえな!と唸らされます。

印象的なその使い方は、エンディングで発揮されますが、それよりも堪らんな思ったところは、夫婦は同じ居住空間にいるはずなのです。
それでも、全く2人の視線が合わないってところなんです。
視線が合わなければ、すれ違うこともない。
これだけで2人のこれまでに歩んできた経過が分かります。

夫婦は一対でありますよね。
それをスプリットスクリーンを使うことで、視覚的にも伝わります。
だからこそ伝わるという部分もあるのでしょうか。
同居しているようでしていない感じ、隠れて悪事を行う、無意識下での支配的な立場、、などを感じ取ることができるのではないでしょうか。

そもそも本作は役者さんが強すぎるのです。
ダリオ・アルジェントさん(うっすらお名前は聞いたことがありましたが映画監督さんだったのですね!)、フランソワーズ・ルブランさん(この方の代表作といえばの「ママと娼婦」は観ないといけませんね、年内に観ることを宣言します!)、アレックス・ルッツさん(この方が非常に素晴らしい!!)の3人が主な登場人物(というかそもそも登場人物が少ない)です。
この御三方が、とんでもなく素晴らしいんですよね。

まさに夫婦としか見えないし、その2人の息子にしか見えないし、フランソワーズ・ルブランさんが本当に認知症なんだろうなと思わせます(特に印象的なのは動作のバランス、目の動き)。
あと孫の自然な感じが良かった。
ミニカー?をがっしゃん、がっしゃんやって、注意されて、それでもがっしゃんやっているところは、かわいいだけでは済まない、頼むから止してくれ、、と思ってしまう。

父親が病院に運ばれ、母親の膝に頭を置く息子のシーンもよかったな。
スプリットスクリーンの効果が発揮されるのは勿論、2人の表情を2方向で確認できるからこそ、感傷的な気持ちにだけはさせない説得力があるんですよね。

息子はドラッグ中毒者で”あった”。
そこで親子関係に確執ができた。夫婦生活に切亀裂が入った。
しかし、息子は今でもドラッグから逃れられていない。
自分と同じように復帰を目指す人々の手助けをやっているが、ドラッグからは逃げられない(私はそう見えた)。
そんな息子は、両親の面倒を見たいのに、幼い子供もおり、生活的に自立がなかなかできないでいる。

この映画には、たくさんの薬が出てきます。
薬を取り入れるシーン(依存している)が出てきます。
薬を破棄するシーンが出てきます(この汚い描写でギャスパー・ノエさん作品だなと思った)。
ここがポイントなのかもしれないなと思いましたね。
依存からの脱却なのかもしれない。

本作では、人間誰もが平等に訪れる”死”について描いています。
それも淡々と。老いを感じ、老老介護の実態を描き、貧困すら描いています。
だからこその恐怖を感じてしまいました。

本作パンフはとても読み応えがあり、さまざま知見を持った方達の評論が載っています。
この評論がとても面白かったですね。
特に、”最近は認知症を使用し恐怖を煽る作品が多いが(認知症に誤解を与えかねない)、本作ではそうすることなくありのままを描いている”みたいな評があり、確かにそうだよなと思いました。

新たなステージへと向かったように感じたギャスパー・ノエさん。
今後も追い続けますよと誓った作品でございました。
てっちゃん

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