てっちゃん

母という名の女のてっちゃんのレビュー・感想・評価

母という名の女(2017年製作の映画)
4.3
ミシェル・フランコさんですね。
なぜか身構えてしまうこのお名前。
でも決して期待を裏切られたことはなく、安定の完成度で見せてくる監督です。

ご一緒してくれる方も、ミシェル・フランコさん、、と身構えはするのですが、鑑賞後には2人して「やっぱええわ」とひたひたに浸ることのできるのが、ミシェル・フランコさんなのです。
なので、週末だし夜映画でもしようかとなって、身構えながら鑑賞開始したのです。

うわあ、、と思わず唸ってしまうシーンから始まります。
すると、ああ自分はミシェル・フランコさん作品を観ているのだと思うのです。
そして、やっぱり好きやなあと思いながら夢中になるのです。

いつものように細かな説明はなし、音楽なし、第三者目線から捉えるカメラアングル、ドキュメンタリーに近い映像、社会風刺描写、、いつものやつが堪能できます。
どうしても身構えてしまう終盤、、こちらももちろんございます。

さて本作で印象に残ったことを人物関係に絞って書いていきます。

本作では大した説明もないまま登場人物たちが動き回ります。
こうなのかな?と想像しながら観ることはできるので、その中で私が感じたことを。

母と娘の関係性について。
一概には決して言わないが、割と母と娘の関係性って年相応に段々と友人に近づいていく印象がある(もちろんそうだと決めつけてはいないし、そうではない家族関係があるのも当たり前である)。
本作では支配したい母親が前面に出てくる。
その支配したい欲が強すぎてしまうが、それを強引に力業で押し進めていくので、周囲は巻き込まれていく。

最初は面倒見が良い人だなと思い、頼り(甘えという表現がいいのか)にしてしまうと最後。
どんどんと、こちら側に浸食してくる。
この"侵食"してくるという表現が実にしっくりくるかと思う。

さらに母と娘の関係性とは、すばり過去になにがあったのかによるものだと思う。

では姉の場合ではどうだろうか。
姉は明らかに支配されているし、それをわかってはいるが逆らえない関係にある。
特に印象的だったのは、姉をダイエット診療?に連れて行くところ。
妹が母親に大して反抗的というか、意思を持って抗議をし始めた段階くらいから、姉の母に対する態度が変わってくる。
ここがいい。
これまで抗議ということをしなかった姉が、なぜその行為に及んだのか。
そこを考えさせて、想像させるまでいかせるのがいい。

もともと”家族”になど興味のない姉が(しかし生きていくためには強いものに媚びることだけは行う)、”所詮は他人である”という意識に変わり、外野にいようという意識の移り変わりを感じた。
しかしながら、ひとりでは生きていけないから、最終的には縋り付くことしかできないのだが。

では姉と妹の関係性はどうだろうか。
妹が全く配慮なしに真昼間から性行為を行い、全裸でリビングに出てきて(その彼氏?夫?までも)、散らかった妹の部屋を姉が片付ける。
パートナーがいて人気者で容姿が整っている妹とどうしても自分自身で比較してしまう姉。
それをかなりのコンプレックスに感じている姉。
それを感じ取っていて、マウントをとってくる(間接的に)妹。
おそらくは、母親は同じだが父親が違うであろう姉妹。
2人とも、お互いのことを、まるで信用していないし信頼していない。
本作が姉妹仲良しって感じなら、全く違った印象であっただろうに、そうはさせないのがミシェル・フランコさん。

妹と母親について。
おそらくは過去に確執があったのであろう(姉もなのかは不明)。
その結果、母所有の家で生活しているのだろう(母親は裕福な暮らしをしているのだろう)。
あとのことは書くまでもないが、妹は母親と同じような生き方をしていくのだろうか。
それとも、またあの家に戻るのだろうか。
”家族”と一切の決別をして生きていくのだろうか。
あのラストシーンの表情について、否応なしに母親の子どもである自分に気づいた表情であったように感じた。

母親はなぜあのような仕打ちをしたのだろうか。
おそらくは、自分がいいなと思ったものを、略奪して満足するタイプなのだろう。
さらに付け加えると、独占欲がものすごいし、自己アピールもすごいし、過去の栄光が忘れらないタイプなのだろう。
それに満足している間は、それに過大な愛情を注ぐのに、一瞬でも嫌だと思ったら、それをあっけらかんと手放す。
だから娘であろうと躊躇はしないし、そもそも見ている目線が違うのだろう。
自分の理想とする世界でないと気が済まないのだろう。

若さと老いという面で見ても面白いかもしれない。
どうしてもやってくる老い。
それを認めたくない、少しでも遅らせた、気づきたくない母親。
娘たちは、若い。
それはどれだけ努力しても手に入れるこのできないものだ。
だから外面だけでも若くいようと思い、あのような異常としか言いようのない行動に出たのではないだろうか。

旦那?はひどかったな。
その一言で十分だし、とあるシーンでは”うわ、まじか”と声が出てしまった。
ラストシーンも良かったな。
あそこまでバカとして描かれて。

ミシェル・フランコさんは人生のドラマ性、家族とはなんぞやを描きつつも、人間を愛している監督さんだと思っております。

観賞後に思わず2人ともため息、、
それでも、めちゃくちゃいいなーが一言目。
大好きな監督さんです。
てっちゃん

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