泣いたり踊ったり

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスの泣いたり踊ったりのレビュー・感想・評価

4.2
【ネタバレ】
主演のミシェル・ヨーが実の母親によく似ている。細面で、痩せ型で、顔の輪郭、服のセンスに疑いを持ってない感じ、髪型、そして娘に厳しいところも。

ポスターの雰囲気とA24作品という前情報からおそらくアジア系が活躍し、LGBTQな登場人物がおり、ルッキズムの逆をゆく感じまでは想像出来ていた。
戦時中は映画の表現がある程度規制されたように、最近は最近で別の形でかなりの数のメジャー作品がある種の傾向を追随している。作り手側も大変だろうが見る側も少し食傷気味ではある。
早く人種や国籍や男女の垣根さえ無くなり地球人で統一して欲しいと思ってるのも本当なんだが、この感情も本当である。

オープニング、中国系アメリカ人が英語と中国語をチャンポンしながら騒がしく会話をしていて、そこに炊飯器が炊き上がる。当たり前のように炊飯器を開けご飯をかき混ぜるシーン、おそらくアメリカ映画で初めて見る動作だ。

確定申告のため役所に出向くあたりからゆるやかに映画のBPMが上がってゆく。気が付くと脳ミソが追い付けるギリギリの速さを攻めてくる怒涛の展開にこちらも巻き込まれていくような体験型アトラクションのよう。頭に入って来ない状況説明はおそらく重要じゃ無いものとみなして何とか食らいつきながら視聴を続ける。

ステファニー・スーのファッションと演技がひたすらに可愛く、これだけでも見に来た価値があったなーとか思っていたら、何となく母娘オチのにおいがしてくる。

映像はめちゃくちゃ2022年を感じさせるし、マルチバースの世界が笑わせにきているのも好きだし、やや乱暴なSF設定もそれなりに楽しめる。銀河の果てまでカンフーの打撃技で飛ばされながらくるくる回転して見る景色、ちょっと酔いそうだけど案外キレイだなーとか思ってたら遠くに見えてきた不時着するであろう惑星、なんかすごく既視感ある…地球!?みたいな。
銀河系の星々を眺めていたら何時の間にか実家のコタツでミカンを剥いていた、みたいな。
摩訶不思議な映像体験。

あ、これ親オチだなと気が付く頃にはもう遅くて、私のような機能不全家庭、特に母親と確執があった人間、石ころが二つ並んでる無音のシーンで完全に泣かされてしまう。マスクの中がぐちゃぐちゃである。
情報過多の連続はこのシーンに緩急を付けるためかと思えるほどにここが際立っており、そんな安直な帰結ずるいよ好きに決まってると心の中で何度も何度も抵抗しつつ映画の強い磁場に引き込まれてゆく。

そこからはもうなすがまま、されるがままである。涙はずっと止まらない。

最近はどうもこのレビューサイトで言語化する前提で映画を見てるから客観的になってしまうが、それをぶち壊してくる作品。やっぱ映画として強い力を持ってると思う。

展開や話の作りがけっこー乱暴で強引なんだが、意外と腑に落ちて心を掴まれるこの感じ、なかなかやろうと思って出来るものでもないと思う。
それが監督の手腕なのか編集、撮影、俳優たちの演技なのか、たまたま私の感性と噛み合っただけなのか素人目には分からないが、映画館を出たあともめそめそしつつ余韻に浸っていた。

いい映画を見た。
私は映画の感想とか書くくせに客観的になるのが超苦手だから、しばらくはこの余韻のままに、この映画のどこが良かったのか分からないままに、なんかぼんやりしていようと思う。

"ha ha ha ha ha"
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