minaduki

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのminadukiのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

1)あまり儲からないが手間ばかりかかる家業のコインランドリーを嫌々切り盛りし、煩雑な家事労働と夫への失望、呆けた父親への嫌悪感、同性愛者の娘との不和に疲れ果てた中年女のヒロインは、擦り切れる寸前のクライシス状態である

2)彼女は面倒なことから逃避するように、一瞬意識を現実から切り離し、空想の世界に飛び込む癖があった
そしてついにある日、税務署で必要経費をめぐって徴税官とやり合っている最中にブチ切れ、意識が飛散して多元宇宙に飛び出した

3)そこで彼女は、かつて自分が憧れた未来や豊かな生活を送っている成功者の自分を見る
マルチバースの宇宙でヒロインが見たもの、そこで得た気づきとは…?
そして、遂に彼女はワンネスへの覚醒へと至る

4)現実に戻ったヒロインは夫との関係を修復し、娘と和解する。仕事に新たな気持ちで向かい直し、家族は崩壊の危機を脱する
彼女が得た気づきとは…
それは争いの無益さ、愛の大切さだった


ということなので、カンフーあり、アナルストッパーありの色々盛りだくさんの混沌だけど、行き着く先はごくシンプルでオーソドックス

問題は、3)から4)へのジャンプが果たしてうまくいっているのかというこの一点に尽きると思う
奇抜からオーソドックスに落ちる時には、より大きな説得力が必要だ
この映画では、例えば『2001年宇宙の旅』をパロって、私たちの祖先の指が武器をつかむことができないフニャフニャのソーセージみたいだったら、人類の間に戦争は生まれなかった。(武器の骨を掴むことができないからね)
でもドビュッシーの『月の光』はきっと生まれていたよピアノは足の指でも演奏できるものねと語るのだけど、さすがにこれに説得力は…

現実では敵対している徴税官があちらの世界では恋人だったり(LGBTの自分)、夫と結婚しようと決意するまでの純粋に愛を信じた自分を見せられていくのだけど、いずれも私には雑に並べられたジグソーパズルの破片のようにしか見えず、心に像をくっきりと結んではくれなかった

この映画を評価する人たちはその辺りの描写をしっかり捉えて、やはり愛が大切だと納得したのか、或いは、
コメディなんだから途中笑えればいいじゃん、結末はお約束だからと受け流してみたのか
作家は果たしてどんな思いでこの映画を作ったのかしら

それにしても、人がいない世界で二つの石があって、一つの石がもう一つの石ににじり寄り、もう一つの石はそれを嫌って離れて、最後は二つ揃って崖下に落ちていく、あのシーンは何を言っているのだろう
母石と娘石はなぜ共に崖下に落ちていったのだろう

監督の前作は『スイスアーミーマン』この上なくバカバカしくお下品な映画だけど、嫌いじゃない かわいい映画だと記憶に残っていた
その世界観は今作にも引き継がれているかな多分
minaduki

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