白瀬青

すずめの戸締まりの白瀬青のレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.5
中央構造線上に現れる災厄の扉を閉めて回る巫子的な役割のお兄さんがいる。たまたま通りすがりの主人公・すずめが関わったことで、地震を抑える石が外れてしまい、お兄さんは椅子に姿を変えられてしまう。すずめは椅子になったお兄さんの代わりに扉を閉める代役を申し出るーーそんなロードムービーだ。
すずめが行く先々で出会い、(外観上は)訳ありそうな一人旅の彼女に手を差し伸べてくれるのはさまざまな年齢層の魅力的な女性たちだ。それは、女子高生の一方的な好意であっても成人男性が未成年を連れ回したり、見ず知らずの男性に女子高生の旅を手伝わせたりしては危険だという配慮かもしれないが、結果として女性が女性の助け合いの中で成長していき、すずめを助ける女性達も彼女に想いを託していく上質なジュブナイルになっている。天気の子ではダーティーな搾取的存在として描かれる夜の仕事も、そこで働く女性のシスターフッドとして描かれる今作では女性たちが必ずすずめが危ない目に遭わないようにがっちりと手を組んで守ってくれ、ときに叱りつつも私達にも訳ありの年頃はあったものだと程よい距離から理解を示してくれる。

そんなわけで直球の震災の物語で、そこには当然良くも悪くも感動も怒りも含めていろんな感想があると思うが、私が思い出したのは「最後だとわかっていたなら」という詩だ。同時多発テロの被害者に向かって「逢えるのが最後だとわかっていたら、出掛けるあなたにちゃんと挨拶をして抱きしめたのに」という内容の詩だ。
被災者の感情をすべて表現することはできない。ただ突然愛する人の命を絶たれた感情に共通してあるのは、いつも通りの日々が今日終わりを迎えると知っていたならちゃんと「いってきます」と言ったのに/あの日いつものように扉を開けて「おかえり」「ただいま」と言ってほしかったのに、という想いではないだろうか。

というわけで有名な前二作が苦手な方にこそ見てほしいロードムービーになっており、前作の自己批判、セルフ返歌とも思える作品になっています。
今回音楽やネットでの深掘り解釈に頼らないしそうやって深読みで騒ぐことがなんの楽しみにもならない作りなだけで、かなり誠実な作りだと思いました。特にスピリチュアル的な面が強くはあるし解釈の余地もあるとは思うけれど、おそらく新海監督は自分の魅力がよくわかっている方で、そこらへんは神社要素を含めた日本の美しい光景が国内外ともにたいへんウケるのを知っててやってるだけで深い意味はないと思うので……。

最後にこれは率直な感想なんですけど、美しくて強い、男の巫子的な役目の草太さんにめちゃくちゃ萌えたし、そのちょっと怪しいし妖しい草太さんに対してあの親友という配置にたいへん萌えました。どういう……ことなの……。
白瀬青

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