翼

神々の山嶺の翼のレビュー・感想・評価

神々の山嶺(2021年製作の映画)
3.9
何故山に登るのか?
そこに山があるからだ。

日本人なら誰もが知るこの問答。この作品を観るとその言葉の奥行きや哲学、ある種の病的な解釈に気がつく。
山屋(登山家)たちは前人未到の挑戦に取り憑かれているが、羽生は深町の質問に対して「記録なんて意味がない」と吐き捨てる。では登頂には何の意味があるのか。きっと説明できない。ただ心がそうさせるからするだけ、と理屈を超越した世界がある。
高山病から来る頭痛の表現、凄い。
経験あるとわかるけれども、本当に頭の奥の方からズキンッと来て目の前が一瞬赤くなる。一度来てしまうと標高を下げない限り永続するので、痛みに備えて身体が強張り痛みに支配されてしまう。白みぼやける視界の中でペグを打ちカラビナをかける気力の危うさたるや…この一連の描写はアニメーション表現ならではで、見事に成功していると感じる。山屋の矜持や山の外的内的含めた厳しさの表現など、極めて映像化困難な世界を見事に描いた価値ある作品。
だからこそキャッチコピーの『究極の冒険ミステリー、登山史上最大の謎に迫る』はもはや作品への冒涜。そこじゃねえだろ
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