岩嵜修平

ケイコ 目を澄ませての岩嵜修平のレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
3.9
ボクシングも聾も、あくまでケイコという人の生活を描くための要素に過ぎず、多くの映画のように、殊更に力を入れてないように見える(勿論、とてつもない準備をされてるようだが…)のが良かった。時代がコロナ禍の今に置き換えられたからこそ、ケイコが今も近くに暮らす感覚。

実話をベースとしているからこそ、大きな事件はなく、淡々と物語は進む。三宅監督が掬い取ったエピソードと極限まで削ったセリフと演出と音で、最大限に関係性や感情が伝わってくるのを観てしまうと、他の映画があまりに余計な説明や感動ささることを目的とした演出をしているか痛感する。監督泣かせ。

月永雄太のカメラは、クロースとロングを巧みに使い分け、ケイコだけでなく、彼女が暮らした街自体も映し取る。フィルムの質感はモデルとなった小笠原恵子が実際に暮らした時代と2020年代の今を接続させる。ケイコそのものを生きた岸井ゆきのの熱演は、しっかり映画賞で評価されて欲しい。三浦友和も◎

佐藤緋美と中原ナナの『ムーンライト・シャドウ』カップルも、とても良かった。ラストシーンの、HIMIの歌に乗せたセリフの無いボクシングとダンスの伝染よ…。一人一人の人生が、小さくても、関係している人たちに影響している。あるべきコミュニティのあり方が映されてた。
岩嵜修平

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