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ケイコ 目を澄ませてのzhenli13のレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.5
地道で静かな積み重ねを経て、不意に涙が込み上げてくる。およそ外連味とは無縁な地道さ。誰でも出来ることではない。『夜明けのすべて』でも感じたことで、本作の主人公ケイコ自身のありようとも重なる。
『夜明けのすべて』とは対照的にほとんどの画面が極端に薄暗い。「目を澄ませる」にはあまりにも暗い。どちらかというと目を凝らすことを意識させるような画面。そこに川沿いの町の灯りが灯る。橋を渡る列車の灯りが横一直線にすーっと行き交うショット。ふっと息をつくような。それが何度も出てくる。素人目には驚くくらい技巧的なミット打ちの音はほとんどビートで、ケイコ役の岸井ゆきのの鍛錬とともに相手を打ち倒す殴り合いであるはずのボクシングは互いがいなくては成立しないコラボレーションであることを知る。
口話の雑音は限りなく削がれ、すべての音が研ぎ澄まされるように配置される。見た目でわからない障害によって一方的な誤解や軋轢を生む機会が無数にあることに加え、コロナ禍のマスクによって読話の手段を断たれるケイコの日常が示されるなかで、彼女と共にあろうとするジムの人々、歩み寄ろうとする人々も静かに配置される。仙道敦子の声はケイコには聴こえないはずだけど、意表を突く陽な言葉はケイコの流れを変える。ほんのわずか発されるケイコの声。そういう音。
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