はる

コール・ジェーン ー女性たちの秘密の電話ーのはるのレビュー・感想・評価

4.2
観たのは先月末。エリザベス・バンクス主演というだけで観ることにしていた。そういう態度なので、今回も作品についての情報は入れずに観ると「そういうことか」と軽いショックがあった。
最近のUSでのトピックとして中絶に関するものが増えていることもあり、そのためとてもタイムリーに感じられた。実際には2022年11月に公開されたということで、当地では直近で「ロー対ウェイド判決」が覆されたタイミングになっている。

こうした背景を知らなくても、十分に楽しめる作品であると言えるし、それにはあえての軽妙さが寄与していると思う。観ればわかるように、主人公たち、妊婦たちが(中絶の、健康の)権利を与えられていない社会で、協力して前進する内容になっている。しかし「非合法ながらも」という注釈があるわけで、アンダーグラウンドの事柄である。それをあえて必要な限り明るくしていることが良いなと感じた。

そのあたりは主人公夫妻の名前に反映されていると思うが、そのジョイはローティーンの長女を育てた主婦で、そのような女性が妊娠するというのは既にイレギュラーと言えるだろう。触れられることのないその前提がまずある上で、「うっ血性心不全」なる診断をされて、出産のリスクが本人に影響する確率が50%あると告げられる。
担当医は理解がある人物に見えたが、中絶のためには「病院の理事たちの合意」が必要で、そこは男社会の極みのようである。その理不尽さがジョイの怒りに火をつけるのだ。

それはつまり「生きるための選択」でもあるわけで、そのための行動に寄り添わない理由はない。
さて、男性の観客にとって、ウィルの態度は指標であり続けるのだが、彼はジョイが最初に倒れたときにはまず「子供のこと」を気にかけていた。そこで考えさせられるし、ジョイには見せられない態度だった。そんな彼も変わっていくわけだが、情けないのは隣人のラナに心が動いてしまうところ。「これ要る?」と思ったけど、まあ製作サイドの彼女たちにすれば「お前らのそういうところ」と指を差されるはずの、ちょっとしたブラックジョークなのかと。
そして秀逸なのはその後のジョイに対するラナの態度だったりするのだが笑。ここまでがセットかな。

また特筆すべきは、バージニアを演じたシガニー・ウィーバーのことで、これがまた良い驚きだった。
最初はメガネやメイクのせいで本人だと気が付かなかったが、2度目の登場で「あっ」となる。さすがの佇まいでリーダーとしての説得力があったし、たしか「you bitch!」のセリフもあったかと。あのモグリの医者との駆け引きもユニークな悪ふざけで面白かった。

そういう悪ノリはエリザベス・バンクスのシーンでもあって、彼女のキャリアを知っていると思わず「これはアレだな」とニヤニヤしてしまったり。

あと印象的だったあのパスタ。
「なぜパスタなのか?」という問いは当然あると思うけど、調べて出てくるのかどうか。個人的には、シカゴとマフィア(イタリア系)のイメージからの、「非合法な団結」「ファミリー」の象徴として見ると面白いように感じている。そしてそれが「料理」だというのがね。

観てそれで終わり、はもったいない。中絶に関する現在進行中の事柄、そしてそこに至るまでの経緯、歴史を知ることで、今作の意義がより感じられるなと思う。
はる

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