リドリー・スコットの伝記、歴史劇での職人ぶり、そしてスケールの大きな会戦シーンなどは劇場でこそだろう。
その職人ぶりは、大胆さ、精度、そして「滑らかさ」について感じたことで、そこをどう評価するか。
繰り返されるバトルシーンや似たショットのことなど、衒いのない仕上がりで「こうなるか」と、良い意味ですんなりと観終わることができた。編集のところでさっくりと削ったなと思えるところも少なくないし、それは例えばジョゼフィーヌとのことだったりする。やはり大幅にカットしたということで、配信が予定されている拡大版ではさらに２時間分が追加されるそうだ。リュビディーヌ・サニエあたりのキャストの出番がごっそりカットされているくらいだから、別物になるのかも。
史実との整合のことはどうせ何かあるわけで、そこは強く求めていない。「アレってどうなの？」と気になったら調べれば済むことで、なぜ変えたかを考えるのも良いだろう。
ナポレオンが皇帝の座につくことの評価でアングルがあることなどは、有名なエピソードがあって広く知られているが、少しも触れるようなことをしない。ただし彼が立場上、何に気遣い、そのために何を犠牲にするか、などは見えたから、そこは配慮のあらわれと言えるかも。
『グラディエーター』などでの成功に倣って、というかリドリーはバトルシーンで戦術のことを描くのがホント好きなんだなと再認識するし、まあ面白いよね。あと肉弾戦も相変わらず。第一線で撮りたいものを撮れることを楽しんでいるだろうし、そのための予算や撮影手法のコントロールまで含めて、敬意を込めて職人だなと思う。
そしてこの歴史劇製作の流れを活かすように、次作『グラディエーター２』になだれ込んでいるあたりも、効率とか考えてのことのはずだ。
「英雄」のこの描かれ方はどうだ、というかホアキン・フェニックスだったらこうなるよなと感じたし、常にどこか可笑しみのある人物にも見えた。だから所々で「これってコメディなのか」と思ったり。それで彼の非情さ、残忍さもさらに浮かび上がるのかと。そういう幅のある演技、存在感はさすがだなと言うよりない。
可笑しみについてはヴァネッサ・カービーにも当てはまると感じているので、この２人の配役はかなりうまくいっているのかと。そして当初の予定通りジョディ・カマーだったら、やはり安直にすぎると感じただろう。
このナポレオンは、勢いを失っていく過程の方が主題のように感じた（主演の年齢のこともあるが）。それはそれで良かった。
そしてフランスの観客は大いに批判しつつも動員は伸びたそうだ。それもそれで良かった。
