むさじー

(ハル)のむさじーのレビュー・感想・評価

(ハル)(1996年製作の映画)
3.8
<ネット黎明期のピュアな恋物語>

パソコン通信の映画フォーラムで、怪我でアメフトを諦めた営業マンの「ハル」と、恋人と死別した過去から抜けだそうと職を転々とする女性「ほし」がメール交換を始める。ハルの前に「ローズ」と名乗る奔放な女性が現れ一波乱あるが、遠く離れ見ず知らずの二人がネット上の交流で次第にかけがえのない存在になっていく。
四半世紀前のインターネット黎明期の映画なので、パソコンを介して文通しているような雰囲気があって、会う際の目印がフロッピーディスクというのが懐かしい。映画は“往復書簡”のようなやり取りが中心で画面の文字を読むことになるが、外国映画の字幕のようでありサイレント映画のようでもある。文字を読むという行為は観る側を前のめりにさせるようで、結構惹きこまれた。
そして匿名世界のやり取りだから本音を言いやすい利点もあるが、当然ウソも混じってくるので、想像を働かせ妄想を膨らませながら実像をイメージする。実際のハルは恋人と別れ仕事にも行き詰まりを感じていて、ほしは自分の過去を整理して前に進みたいと願っていた。共に抱えている孤独と空虚感、そんな自分の気持ちを文字にして誰かに伝えたいという思い。素朴な文面の裏に、気持ちを抑え恐る恐る手を差し伸べるような繊細な思いが感じられて、二人のときめきが伝わってくる。
無機質なパソコンを媒体にしながら、人の心の繋がりを温かい目線で捉えているのがいい。二人が信頼を築いていく過程がゆっくりした時間の中で進んでいくのが心地よい。ベタではあるが、心がときめきホッコリしてしまう。
むさじー

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