むさじー

愛にイナズマのむさじーのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
3.8
<映画愛と家族愛をゴッタ煮風に>

映画監督の花子は「消えた女」という自らの企画で夢のデビューをするはずだったが、彼女の感性を否定し業界の常識を押し付けてくる年上の助監督らの反感を買って監督を降ろされてしまう。そんな折、空気は読めないが誠実な正夫に出会い意気投合する。失意の花子は立ち上がろうと正夫を伴って実家に帰り、父、長兄、次兄と家族が集う中、「消えた女」の核心となる“母の失踪”を追求しその真相に迫っていく。
前半は映画業界のウラ話のようであり、コロナ禍を経験した映画人の叫びのようでもある。花子の落ち込みや怒りとは別に、もう忘れかけていたコロナ禍の功罪に思いを馳せた。これほど社会正義が幅を利かせた時間は近年なかったかも知れない。路上飲酒する大人を子どもが口汚くののしっても、大義名分に沿っているから大人はグウの音も出ない。事の良し悪しはともかく、妙に印象に残るシーンだった。
後半になると家族の問題に急旋回し、閉塞感をブチ破ろうと反撃に向かう花子たちが実家の家族と本音をぶつけ合いながら再生していく。「消えた女」から「消えない男」への意識の変化が収穫であり、成長だったのだろう。
気になったのは自殺にまつわるエピソードが多かったこと。殺人ならクライムコメディとして喜劇になり得るが、自殺はあくまで悲劇でしかない。命が軽んじられている現状への憂いなのだろうが、日常の当たり前の出来事のように響いて、残念ながら気分が落ち込んだ。
コメディあり恋愛ありの、社会風刺絡みのヒューマンドラマという印象だが、やや詰め込み過ぎの感がある。しかしこのゴッタ煮感も味わいになっているし、何よりキャスティングの妙、役者の熱量とアンサンブルが見事だった。
むさじー

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