むさじー

リバー、流れないでよのむさじーのレビュー・感想・評価

リバー、流れないでよ(2023年製作の映画)
3.6
<シュールな設定と昭和の笑いで>

京都・貴船の老舗旅館。若い仲居のミコトが川のほとりに立っている時、突然2分間を繰り返すタイムループが起きる。女将に呼ばれ次の行動に移っても2分経つと川のほとりに戻され、番頭も料理人も客たちも同様で混乱に巻き込まれる。時間は流れるが意識・記憶は続いているので、やがてループに気づき何とか抜け出そうと知恵を巡らせ、皆で協力しながら行動を変えていく。
以前の上田誠脚本『サマータイムマシン・ブルース』『ドロステのはてで僕ら』と同様に緩めのタイムスリップものだが、ドラマの作り込みは豊かになり確実に進化している。
まず、ループによって記憶はリセットされず、「初期位置」に戻って蓄積された記憶から次のループに入るという設定なので、行動の繰り返しに飽きることがない。そしてループとは別にドラマが進行していくので、登場人物がそれぞれに溜め込んだ妬みや遺恨の感情が露わになったり、恋心を告白するに至ったりと本音が出てきて、人間模様の面白さが見えてくる。
斬新なタイムループにこれだけのドタバタ群像劇を織り込んでくる脚本には脱帽した。そして1ループを1カットという2分間動き回る長回し撮影のパワーが新鮮に映った。
低予算映画の制約もあるようで、突然の大雪に「?」となったり、オチの作りが若干チープだったりと突っ込みどころは散見される。だが、この斬新な馬鹿馬鹿しさを一言で否定するのも、メッセージの深読みに走るのも野暮というもの。寛いだ心持ちで身を委ねてこそ真の面白さが見えてくる映画だと思う。シュールだが懐かしいような笑いだ。
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