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胸騒ぎの708のネタバレレビュー・内容・結末

胸騒ぎ(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

またしても北欧の闇。from デンマーク。

なーんか、とんでもないもんを観ちゃったよ、という感じ。感触としてはハネケの「ファニーゲーム」に近いです。普段どんな映画を観てもそんなことはないのですが、ずっと心臓がバクバクしてました。強烈なダメージを食らってグッタリしてました。あまりに怖くて涙ぐんでました。

あ、もちろん嫌いじゃありません。

最初のほうで登場する娘アウネスのリコーダーの発表会や、ビャアン&ルイーセが友達夫婦と食事をする楽しいはずのシーンですら、ずーっと不穏な音楽が鳴っていて、気が抜けない状態がずっと続いてました。

ビャアン一家がオランダのパトリック&カリン宅に招かれてからは、とにかく不快感を与えることが次々とダイレクトに登場。まさか意図的に嫌がらせをしてるだなんて思ってもみないから、お国柄の違い?考え方や感性の相違?みたいな感じで戸惑うのもわかります。でも、ここまで嫌がらせを連発されていると、嫌がらせというよりも試しているように感じるんです。ビャアンとルイーセはどのレベルでNOがちゃんと言えるのか、みたいな実験というか。

アウネスの舌切断とビャアン&ルイーセへの石打ちというラストまでは、そこまでヤバい描写が出てこないものの、とにかく不快感や緊張感を途切らせることなく、ジワリジワリと強烈なラストシーンに向けて繋いでいくお膳立てが見事でした。

ビャアン一家は逃げようと思えば、早い段階で逃げられたと思うんです。だけど、ちょっとした違和感をスルーしたり、なるべく穏便に無難に済ませようとしたり、相手に申し訳ないからとやたらと忖度したりしているうちに、逃げられない状態に追い込まれてしまったわけです。パトリックに洗脳されたわけじゃなくて、ビャアン自身の相手への気遣いがベースになっているのがヤバいです。

英語のタイトル「Speak No Evil」とは「悪口を言わない」という意味。どんなに嫌なことをされたとしても、戦うことなく寛容で許そうという姿勢ゆえの不幸。ビャアンが普段の生活でいい人を演じることに疲れていることを、パトリックに告白するシーンを見ていたら、そりゃあビャアンは丸め込まれちゃうはずだわ、と。でも、こういうタイプって結構多いです。「善意で接してくれる人は100%いい人」みたいな鵜呑みや思い込み。もしそういう人の悪い部分を目の当たりにしても、「でも、いい人だから」という前提に寄せて解釈しようとするんです。それってかなり危険だと思います。

やっている行為自体はパトリックがヤバいですが、家族を守るために一切の反撃もせず、洗脳されてるわけでも監禁されているわけでもないのに、ずっとパトリックの元に居残り続けるビャアンも、別な意味でヤバいように思えました。

娘が呼んでいるのに夫婦揃って無視してセックスに没頭している(それも他人様の家で)のは、ラース・フォン・トリアー「アンチクライスト」の冒頭の悲劇を連想しました。ラースもデンマークですよね、そういえば。

パトリックが好きな曲だと言って車中でかけた音楽はオランダのシンガー、トレインチャ・オーステルハウスの「Nooit Voorgij」という曲。個人的に大好きなシンガーなのですが、タイトルを日本語に訳すと「決して過去にはならない」という意味で、後から考えるとかなり怖い含みがあるなぁと。

ちなみにパトリック役の俳優さんとカリン役の女優さんは、実の夫婦だそうです。
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