このレビューはネタバレを含みます
“本当はそっくりな母と息子の成長日記”
A24の作品にしては、至って正統派の爽やかなストーリー。
メッセージがわかりやすいので、誰にでもストレートに刺さる秀作。
冒頭の5分で、みんなジギー(フィン•ウルフハード)を好きになるだろう。
“こんな息子が欲しい”と心から思ってしまった。
自分のやりたい事かはっきりしていて、シンガーソングライターの才能があり、16歳にして世界中に2万人のフォロワーがいて稼いでいる息子なんて、”羨ましい”と思った観客は、私だけではないだろう。
今、個人的に一推しのシンガーソングライター、藤井風やバウンディーは、中高生の時、こんな感じだったに違いない、と想像できる。
しかし、自分の価値観が絶対だと信じる母、エヴリン(ジュリアン•ムーア)にとっては我慢ならない息子。
DV被害に遭っていた母を幼い頃から助けてきた孝行息子、カイル(ビリー•ブリック)に理想の息子像を求め、必要以上に肩入れしていく。
“小さい頃の彼のまま、素直に成長すれば、こんなはずではなかったのに。”の母親あるあるは、万国共通なのかもしれない。
実は、2人はとても良く似ている親子なのに、ずっとそれに気が付かなかっただけなのだ。
社会貢献的な事業に人生の全てを捧げて来たエヴリンは、”できる限り高い教育を受け、人の役に立つ仕事をするのが当たり前”という価値観を、息子だけでなく、周りの人間にも知らず知らず押し付けていた事に、やっと気付く。
自分の配信する音楽とフォロワーの数しか興味がなかったジギーは、ずっと好きだった女の子、ライラ(アリーシャ•ポー)が社会的政治的な活動をするのを見て、彼女の世界に入り込もうとするが、薄っぺらな考えを彼女に拒絶される。
“世界と繋がっている”と思っていたエヴリンとジギーは、それぞれ、自分の狭い世界や価値観を周りの人間に押し付けていた事に気付くのだ。
初めて息子の配信動画をまともに見るエヴリン、初めて母が経営する、DV被害者支援団体を尋ねて母の仕事を見ようとするジギー。
ありきたりだが、分かりやすいこのラストシーンは、ストレートに胸を打ち、ホッコリする。
母とティーンエイジャーの娘を扱った映画は、邦画洋画問わず沢山あるが、母とティーンエイジャーの息子にフォーカスした映画は珍しい。
息子 を持つ全ての母親に観て欲しい作品。私もその1人だが。