『イル・ポスティーノ』(Il Postino, The Postman)1994
「詩は作者のものじゃない。それを必要とする人のものだ」
イタリア移民が多く住むニューヨークでこの映画は2年間ロングランした。ビデオソフトが発売されても上映され続けた。
イタリア人の琴線に響くささやかな切ない物語。フランス人は理屈っぽくてイタリア人は人情に厚いな。そして美しい島の風景が心に残る。
チリの国会議員(共産党)で詩人のパブロ・ネルーダは1948年に政権をとったビデラ大統領が共産党を非合法にしたためチリから逃れてイタリアに亡命しナポリ湾のカプリ島に滞在した。
イタリア共産党は第二次世界大戦末期にファシスト党残党やナチスと戦った功績で戦後の国会でも議席を持つくらい勢力を持っていた。
だからカプリ島の郵便局長も共産党員であることを隠さないし誇りに思っている。
漁師の息子マリオは文字が読める事、自転車を持っている事から郵便配達員(イル・ポスティーノ)として雇われる。
その仕事は街から離れた高台に住む高名な詩人パブロ・ネルーダへの郵便物を届ける事だ。
朴訥で口下手で学がない青年マリオと世界的な詩人ネルーダの友情の物語。
必死にネルーダに関わろうとするマリオ。ネルーダはマリオが居酒屋の娘ベアトリーチェに一目惚れをしているが全く口説くことができないでいることを知り手を貸す。
ベアトリーチェは勝ち気な娘。サッカーゲームのボールを口に咥えてマリオに顔を突き出す。ボールをとってみなと挑発する。どうしたらいいか分からず固まったマリオにベアトリーチェはボールを吹いて飛ばす。彼女は「美しき諍い女」(挑発者)だ。
ベアトリーチェは伯母と二人暮らし。貧乏な漁師の息子マリオなんかに姪を近づけさせないと頑張る。マリオがネルーダから学んだ隠喩で書いたラブレターを文字通り受け取ってマリオは姪の裸を見たに違いないとネルーダにクレームをつける。
マリオの隠喩で書かれた詩が功を奏してマリオとベアトリーチェは結ばれる。
二人の披露宴の席にネルーダ宛の電報が届く。逮捕状が取り消されて母国チリに帰れるという知らせだ。
ネルーダはチリに帰りマリオは失業するがベアトリーチェの居酒屋を手伝う。
しばらく立ってネルーダの秘書から屋敷に残した荷物を送って欲しいという事務的な手紙が届く。あんなに心が通じ合ったと思ったのにマリオのことは一言もなし。
しかしマリオは気を取り直して屋敷に残っていたテープレコーダーに島の音を録音する。海の音、風の音をネルーダに送るのだ。マリオはテープレコーダーで島の詩を書いたのだ。
総選挙が近づく。キリスト教民主主義党の地元政治家コジモが港湾工事の労働者に食事を提供する仕事を居酒屋に発注してベアトリーチェも伯母もマリオも大忙し。
しかし選挙で当選した途端、工事は中止になりマリオたちには借金だけが残る。
ネルーダは去ったがマリオは今や無知な漁師の息子ではない。政治が生活に直結していることを知ったマリオは共産党の為に活動をするようになる。
数年後、島を訪れたネルーダが出会ったのは、、、
胸が締め付けられるか切ない映画だった。
マリオを演じたマッシモ・トロイージはこの映画の脚本も書いている。演出も出演もする人だが映画の中では教育がない漁師の息子にしか見えない。
撮影当時心臓病を抱えていたが手術を延期して撮影を優先した。彼の体調で撮影できるのは1日に1時間が限界だった。ラストカットを取り終えた12時間後に心臓発作で亡くなった。
この映画はトロイージにとって遺作であり最高傑作になった。