けんたろう

シャイロックの子供たちのけんたろうのレビュー・感想・評価

シャイロックの子供たち(2023年製作の映画)
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青と黄色の物語りに、黒は以外と似合ふ。


金の為めに魂を売る。

生くる為めには、何うしても金が必要な世界である。魂を売るとまではなくしても、迚も聖人君子ぢやゐられない。其んな我々である。本作のテエマは、誰れしもの胸を打つものなんぢやあなからうか。
印象的なシインと云へば、矢張り滝野(佐藤隆太)の家族の箇所である。むろん目新しさは無い。然し矢張り胸に来るものがある。

まあ、簡潔すぎるクライマツクスに因りて、可成り汚く綺麗に纏めあげられてをり、何んだか一本糞のやうな印象を受く。有り体に申せば物足りなし。

然し……然し然し然し!
終幕時、劇場にエレフアントカシマシの新曲『yes. I. do』が流れて、総べてが覆る。
告白しよう。抑〻私しは、此の曲を劇場で聴く為めに此処へ来たのである。要するに、待ち焦がれてゐたのだ此のときを。
果たして、ライフワアクであることが何んにも出来ず、殆ど睡ることも許されず、フラフラに成りながら過ごしたる今日日の私しを、最高のロツクを以て励まし、鼓舞し、感極まらしむエレフアントカシマシ。否、彼れらは別に私しを鼓舞する気などあるまい。然し其れで好いのである。エレフアントカシマシのみならず、私しの英雄たちは皆な己れと戦ひ、己れを侮辱し、己れを突き刺し、一方で世と戦ひ、世を蔑み、世と訣別し、と思ひきや己れを励まし、己れを慈しみ、己れを元気づく。其んな彼れらの最高の表現に依りて、──不思議なことに──私しも亦た同様の攻撃や鼓舞を受くるのである。だから彼れらに私しを鼓舞する気などなくとも、もつと云へば私しの存在など知らずとも関係なし。私しに取りて、彼れらの表現は総べて私しに対してのものである。私しの頭を叩き、私しの背を叩き、私しを殺しにかゝり、私しを生かさんとする其の表現。彼れらが私しを知らずとも、私しに取りては、彼れらこそが私しを知つてゐるのである。「君が僕を知ってる」である。

さて本作とは丸で関係の無い話しをしてしまつた。兎にも角にも私しが云ひたいのは、其れだけエンドロオルが胸に来たといふことである。
映画はと云へば──一本糞である。