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神は見返りを求めるのmaroのレビュー・感想・評価

神は見返りを求める(2022年製作の映画)
4.0
2022年日本公開映画で面白かった順位:12/96
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

今年観た邦画の中で一番好きな作品だった!
『ヒメアノ~ル』(2016)や『愛しのアイリーン』(2018)のように、キャラが感情むき出しで、胸糞悪さ全開で、綺麗事だけじゃない世界が観られる吉田恵輔ワールド全開!

この映画、個人的には面白いと感じるとこらが3つあった。
ひとつは、田母神役のムロツヨシの怪演。
最初はすごくいい人だったのよ。
再生回数が上がらないYouTuberのゆりちゃん(岸井ゆきの)に、下心を表に出さず、無償の善意を捧げて、二人三脚で動画制作をがんばってて。

それが、彼女がバズったところから一転。
パワーバランスが逆転し、田母神が一気にお荷物状態。
あれだけ尽くしたのに、それに対する誠意や感謝の念がないと感じ、ついに不満が爆発。
これまでいい人やコミカルな人を演じてきたムロツヨシが、ガチギレして襲い掛かる姿が衝撃的で。
こんなムロツヨシ見たことないってぐらいに怒りを前面に出しているのがすごくよかった!

もうひとつは、若葉竜也が演じた梅川。
実は彼がこの映画の中で一番の胸糞野郎。
なぜなら、悪口の伝達しかしないから。
田母神には、「ゆりちゃん、こんなこと言ってましたぜ?」と。
ゆりちゃんには、「田母神、こんなこと言ってましたぜ?」と。
自分に中身がなく、誰にでもいい顔しようとする上に、悪意がないという最もタチの悪いクズ(笑)

最後に、「善意」って曖昧かつ儚いものだなってことに気づかされるところ。
田母神も好きでゆりちゃんを手伝ってただけだから、YouTubeからの収入の分配もいらないと最初は断っていた。
それが彼女がバズり出した途端、急に人が変わったように彼女に見返りを求め出す。
自分が好きでやってたことだから、本来はそこまで言う権利はないはず。

もちろん、田母神にも言い分はある。
知り合いの借金を肩代わりしてて先立つものが必要だったってのもあるけど、一番は嫉妬心じゃないかなと。
ずっと2人でやってきたのに、バズったのは人気YouTuberとのコラボおよび村上アレンのセンスのおかげ。
ゆりちゃんが自分の力で勝ち取ったものでもない。
なのに、これまで尽くしてくれた田母神をのけ者にして、そちら側についたことで、嫉妬のようなものを感じたのかと。

それらを踏まえて、善意って難しいなって思った。
お互いに安定した関係のときには何も言わないのに、そのバランスが崩れた途端あーだこーだ見返りを求め出すって現実世界でもたくさんありそう。

あと、YouTuberに対するリスペクトも感じられたのもよかった。
「くだらない動画垂れ流しやがって!」と罵る田母神に、「再生回数伸ばすために、毎日頭抱えながら、全力でバカやってんだよ!」というゆりちゃんの言葉に、YouTuberの知られざる苦労を感じる。

また、終盤のサイン会でファンの子が言っていた「残るものって、そんなに偉いんですか?」というセリフ。
ゆりちゃんは映画のように後世に残る映像にこそ価値があると思っていたけど、ファンの子から「でも、あなたの動画から元気をもらっています」と言われて、別の価値があるってことに気づかされるんだよね。
これを映画という媒体の中で発するっていうのもすごいけど。

そんなわけで、人間の感情が表に出まくってて見ごたえ抜群なので、全力で推したい。
とにかく、ムロツヨシの怪演は一見の価値アリ!
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