噛む力がまるでない

宇宙探索編集部の噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

宇宙探索編集部(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 中国で実在するUFO雑誌「飛碟探索」をモデルに制作された作品である。

 ユーモアを交えたロードムービーで、人生の意味に対するけっこう哲学的な問いかけもあり、家族の死の意味を追い求める男の話としては『ファースト・マン』に近いものを感じる。とにかく不器用で変わり者の主人公タン・ジージュンをヤン・ハオユーがチャーミングに演じていて、たたずまいだけでも苦労してきた30年を感じさせるものがある。テレビの砂嵐の前に電波の残照を語るシーンでのほのかに嬉しそうな表情を見て、「ああ、このオタクっぽいぎこちない感じ、知ってる」と思った。

 宇宙へのロマンを描いた作品のわりに地味な暮らしも描いていて、地に足のついた印象も与えている。スン・イートン(ワン・イートン)が暮らす田舎町でタンたちが一緒に生活していくくだりは一見無駄に思えるが、実はこの映画の重要なくだりで、甥の結婚式での「一人ひとりが文字であり、詩になる」というタンのセリフは困難があっても生き続けるということを表していて、それをあのへんの生活シーンに集約させているんじゃないかと思う。この映画の登場人物は基本的に社会との接点を持ちにくそうなキャラクターばかりで、そんな人たちが楽しそうに寄り添って生きている様子が丁寧に描かれているのもポイントなのかなと思う。

 ドキュメンタリーというていで話が進んでおり、インタビューがあったり、撮影もわざとこなれた撮り方をしてなかったりしているが、この手法は終盤ではあんまり有効ではないような気がした。タンが旅の最後に見たものが現実なのか夢なのかというロマンを持ち上げるために必要なのは神の視点(というカメラ)であるはずが、しっかり撮影者がいるとちょっとそのへん食い合わせが悪いと思う。