噛む力がまるでない

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎の噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』を原作とする劇場用アニメーションである。

 鬼太郎(声:沢城みゆき)の父親の話という前日譚にあたるもので、企画自体はそんなに目新しいというわけではないのだが、脚本がとてもよくできていて、鬼太郎に思い入れがないわたしも大満足の作品だ。
 導入が完全に『犬神家の一族』で、横溝正史みたいな田舎ホラーを鬼太郎の世界でやるのは相性がよさそうだし、今作はさらにバディものの要素を組み込んで非常にうまく消化したミステリーになっている。この背骨を見つけた時点で企画は半分以上は成功しているような気がする。とにかくバディもののお手本のような出来で、定番と言えるような展開を使いながら理と情のバランスがかなりしっかりしている。(バディものに限ったことではないが、)「焚火を囲む」というこれまた定番の作劇テクニックをゲゲ郎(声:関俊彦)と水木(声:木内秀信)が妖怪というモチーフで火を囲んでいるシーンには、もうこれはやられた!と思った。
 ミステリーとしては犯人が龍賀沙代(声:種﨑敦美)という予想通りの意外な人物なのは王道な感じで、そこに田舎ホラーのえげつなさが挟み込まれて面白さを倍増させる効果をもたらしている。脚本の吉野弘幸はこの手のジャンル作品を多く手がけているわけではなさそうなのにこれだけ面白いとは、まったく驚きだ。ただ、ミステリーがひとしきり終わった後、お話が鬼太郎の世界観とかアクションの秩序に飲み込まれていくみたいでスケール感の増加があり、しょうがないのかもしれないが、クライマックスは正直なところ間延びしている印象を受けた。

 キャスト陣に関しては大ベテラン勢をそろえており、手堅い。わたしは90年代に関俊彦の声を親の声より聞いた人間なので、関のゲゲ太郎はえらいカッコよかったし、木内秀信との掛け合いはとてもロマンティックだった。