噛む力がまるでない

エアポート'75の噛む力がまるでないのレビュー・感想・評価

エアポート'75(1974年製作の映画)
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 1970年製作の『大空港』の続編となるパニック映画である。

 これ以降、多くの類似作品を作るきっかけとなった乗り物パニック映画の代名詞だが、全体的にわりと落ち着いたトーンでしっかり見せる感じだ。劇伴もここぞというところでかけるようにしていて、不必要に煽るようなことはしていないのも良かった。空撮やスクリーン・プロセスも効果的だが、やはりこの映画は俳優の演技力が重要なポイントである。操縦が困難となった飛行機の運命をまかされたナンシーの様子を緊迫感たっぷりに保たせるカレン・ブラックの演技は抜群で、動きづらいセットの中で表情と肉体でスリリングさを表現するというのは実はけっこうすごいことだと思う。自動操縦を切って「機体は君のものだ」と言われた時のナンシーの青ざめる表情はこの映画の白眉だ。

 あと、この映画のポイントのひとつとして、乗客が物語にあまり介入してこないということがある。あれだけたくさんの乗客にカメラを向けているのだからナンシーをサポートしたり、人的災害にしたりしてもいいのだが、そういったサブプロットは設けず、映画を見ている観客と同化させる役割だけを果たすようになっている。乗客は視聴者の身代わりなので一切手出しできないのはストレスがたまるが、見ていて「本当にどうしようもないんだ」という感情が湧き起こる。ただ、ここに創作の余地があり、これ以降の類似作品で乗客側にいろんなドラマを入れるのは当然なのかなという気がする。