マヒロ

雪之丞変化のマヒロのレビュー・感想・評価

雪之丞変化(1963年製作の映画)
2.5
かつて悪行の濡れ衣を着せ自らの家族を破滅させた悪い奉行に復讐を誓い、舞台俳優の女形として正体を隠しながらそのチャンスを伺っていた雪之丞(長谷川一夫)は、ある日の舞台で遂にその仇・三斎(中村鴈治郎)を発見する。千載一遇のチャンスとばかりに、雪之丞は彼の娘である浪路(若尾文子)に取り入りその懐に潜り込む……というお話。

凄腕の剣技を持つ女装の美男子が侍たちをバッサバッサと斬り捨てる……という、いわゆる「舐めてた相手が殺人マシーン」系映画。そのあまりの可憐さに、前述の波路や男嫌いのならず者の女性・お初(山本富士子)なんかが見事に一目惚れしてしまうという設定なんだけど……こういっちゃなんだが、主人公の雪之丞を演じる長谷川一夫氏が結構なお年であり、その立ち振る舞いがいかに美しくても化粧をして高い声で喋る女装のオジサンにしか見えず、年頃の女性がコロリと惚れてしまうという展開にもの凄い違和感を覚えてしまう。そういうもんだと納得させながら観るしかないんだろうけど、ちょっと無理があったかなぁ。雪之丞と浪路の恋路が一つの重要なファクターになるお話なので、ここがノイズになってしまったのはものすごく惜しい感じ。
また、闇太郎という義賊の男を雪之丞と同じく長谷川一夫が演じているんだけど、これが別人という設定というのもよく分からず。てっきり闇太郎は雪之丞が化粧を落とした時の姿なのかと思って観ていたんだけど、普通に2人で会話するところがあるのでそういうわけではないらしい。これも別に深い意味があるわけではなく、そういうお決まりなんだと解釈して見るべきなんだろうが……。

市川崑監督のモダンな映像センスは十二分に炸裂しており、屋外のシーンはとにかく余計な情報を削ぎ落としたシンプルな画面になっていて、例えば夜の場面では真っ黒な背景に壁のセットが建っているだけ、霧がかった場面ではもはや真っ白なだけの背景だったりと徹底していて、この映像の面白さだけでも観る価値あり。
ミニマルな画面構成により風景を観客側の想像力で如何様にも補完出来る様に作られているのが、前述の雪之丞のやや無理のある設定を補完しつつ見なければいけない感じと上手マッチしていた……というのはポジティブに捉えすぎか。
長谷川一夫氏の映画出演300本記念の作品らしく、彼が出ていることに意義がある映画なのは分かるんだけど、別の作品ではいけなかったのかと思ってしまったな。

(2020.25)
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