かんげ

ザリガニの鳴くところのかんげのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
3.6
【生物は、強いものだけが生き残るわけではない】

ノースカロライナ州の湿地帯で、櫓から転落したと思われる青年の遺体が発見された。亡くなったのは町の人気者チェイス。事故・殺人両方の可能性が考えられたが、逮捕されたのは、その湿地で幼い頃から1人で暮らしてきた女性カイアだった。裁判において、彼女がなぜ1人で生きてきたのか、被害者との関係性などが徐々に明かされる…という物語。

原作のことは知らなかったのですが、予告編で見て気になっていた作品。「何だろう?」と思わせる秀逸なタイトルですね。ポスターのイメージだけだとホラーにも見えます。少なくとも、わらわらとザリガニが出てきて人を襲う映画ではないです。

チェイスのほかに、もう1人カイアと親交が深かったテイトという少年が登場します。カイアに読み書きを教え、彼女の世界を広げた人物。そうなると「実際にチェイスを殺害したのはテイトで、カイアはそれを知っているということでは?」などと想像しながら観ていました。東野圭吾「白夜行」的なものをイメージしていました。

ただ、この作品がミステリーなのかというと、そうでもありません。発端はミステリーのようなスタートなのですが、途中「あれ? これはヒューマンドラマなの? ロマンス物なの? いや法廷ドラマなの?」と、戸惑う時間が長くあります。

一応、最後に真相らしきものが提示されますが、それをもってしてもミステリーとして「なるほど!」という感じはありません。「まあ、あのセリフが伏線だよね」という答え合わせはありますが、「いや、どうやって…」「それだけでは、なんとも…」「で、それはどこにあったの?」と次々と疑問が浮かび上がります。ミステリーならば、そこは観客に預けちゃだめでしょう。もしかして、納得できる情報が提示されていて、私が気づいていないだけなのでしょうか?

テイトが、カイアが最も大切にしているものを最初から理解していて、それ故の彼の決断であることは、彼の贖罪の言葉を聞く前から理解はしていましたが、それにしても「やりようがあるだろ」とは思います。いったん退場させるための、無理矢理な展開のように感じました。

チェイスは、最初からあからさまに「こいつダメな奴やん」を感じる言動を連発します。「こんな奴に惹かれる?」と思いますが、まあ、人付き合いの少ないカイアなので仕方ないところでしょう。カイアの父親に通じる支配欲だと思っていたら、最終的には…という点は納得できました。

裁判の中でさせ、誰もカイアのことを名前で呼ばずに、当然のように「湿地の女」と呼び続ける嫌な感じもいいですね。風変わりな人を勝手に呼び名をつけて都市伝説的に揶揄するところは、田舎で育ってきた私も経験してきたこと。私自身も陪審員側というか、その他大勢の街の住民側の立場になる可能性はおおいにあるという点は、考えさせられました。

ノースカロライナの湿地帯の自然の風景はとてもきれいで、その中で強く生きるカイアを演じるデイジー・エドガー・ジョーンズもきれいで(若い頃のシャルロット・ゲンズブールにちょっと似てる)、余所者への偏見というどこにも共通しそうな背景もあって、興味深い謎の提示もあって、もっともっと面白くなるポテンシャルはあったのに…という感じはありました。

ところで、ザリガニは本当に鳴くのでしょうか? 小さい頃に台風接近の荒天の中、用水路に溢れるようなザリガニをバケツに山盛り獲ってきた経験のある私ですが、鳴き声は聞いたことはありません。もしかして「ザリガニが鳴く」というのは、「ありえない」という意味で、「ありえないぐらい遠くまで逃げろ」ということなのでしょうか。

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