カツマ

ザリガニの鳴くところのカツマのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
4.0
真相は追憶の彼方に沈む。広い広い湿地の奥、それは紛れるように潜んでいた。時は経ち、哀しみは降り積もり、孤独を癒すための毎日が自然界の掟のように横たわる。彼女の親は過去。教えてくれたのは共に生きた湿地の中に。彼女は一人で生きていた。遠くで打ち上がる花火の音が、例え、聞こえなくなったとしても。

本作はディーリア・オーウェンズによって2018年に発表された同名小説を原作とし、製作にリース・ウィザースプーンが名を連ねたサスペンスフルな法廷ドラマである。結果が先に判明し、遡るように過去を紐解いていくような物語。そのため、主人公の過去話の様相を呈しており、前半はドラマ要素が強く、後半はサスペンス要素が強い構成となっている。湿地で起こった殺人事件の顛末とは?裁判にかけられた主人公の運命とは?犯人はどこかに潜んでいる?のかもしれない。

〜あらすじ〜

1969年、ノースカロライナ州の湿地にて。街の血気盛んな若者チェイスが死体となって発見された。その容疑者として槍玉に挙げられたのは、湿地の娘として街の人々から嫌悪されてきた娘、カイア。彼女は投獄され、裁判の日を待つのみとなっていたが、引退した元弁護士トム・ミルトンが弁護を引き受けることに。カイアは孤独な娘で、彼女の過去は壮絶なものだった。
1953年、まだ幼かったカイアは、父と母、兄たちと湿地で暮らしていた。が、父は母に日常的に暴力を奮い、ついに耐えきれなくなった母は子供たちを残して見知らぬ地へと去ってしまう。その後、兄も去り、カイアは父との二人暮らしに。そんな父も母が帰ってこないことを確信すると、カイアを一人残して出ていってしまったのだった。そんな孤独な少女の癒しとなったのは庭同然だった巨大な湿地と、その湿地で出会ったとある少年の存在だった。

〜見どころと感想〜

非常に丁寧に紡がれるサスペンスドラマで、進行はゆったりと、カイアの過去から遡って現代の裁判騒動にまで繋げていく物語。犯人当てが主軸ではなく、カイアの人生にスポットライトを当てながら、彼女の孤独な人生を解きほぐしていくような展開が待っている。ただ、もちろん謎はあって、その謎がいつまでも脳裏にこびり付きながら、クライマックスの静かな余韻へと到達させる手腕は巧み。サプライズは少ないが、ドラマ映画としての完成度は高い作品であると思う。

主演のデイジー・エドガー=ジョーンズはイギリス出身で、10代の頃から主にドラマ畑で活動してきた女優のようで、長編映画となると『フレッシュ』に続いて今作がまだ二作目。いよいよこれからというタイミングでの大役獲得となったのは間違いないだろう。共演のテイラー・ジョン・スミスは『ハンター・キラー』などに出演、ハリス・ディキンソンは『ブルックリンの片隅へ』などに出演しており、大作での経験も豊富。二人ともやや地味ではあるが、それぞれに今後が楽しみな役者であろう。

孤独な娘を通して描かれる縮図の在り方。それは酷く残酷なようでいて、実は非常にシンプルな行動原理として描かれている。それが分かるのはエンドロールが落ちる寸前で、だからこそ、今作はサスペンスとして機能した。ザリガニの鳴く場所、それこそが今作のテーマの主軸だったのかもしれないし、時間の経過と共に変わるもの、変わらないものを克明に刻み込んでいるに過ぎない。決して派手さはない。けれど、物語としては秀逸。染み渡るような映画体験を求める方に適した一本だろうと思う。

〜あとがき〜

主にミニシアター系列で注目されていた本作が配信にきていたのでようやくの鑑賞です。原作がヒットしているということですが、小説で読んだ方が面白いかも?というストーリーにも感じましたね。キャストが有名どころを起用していない点も好印象。誰が犯人なのか?という犯人当てを一度脇に置いて、カイアの人生を見つめることができたのは良い構成だったと思います。

個人的には引越しをしまして、都内の西側にやってきました。そのおかげで通勤時間がドカッと増えてしまい、映画を配信で見る頻度が増えそうです。この1ヶ月間育休で映画をほぼ見れませんでしたので、まずは見逃しの配信作品をバシバシと見ていこうかなと思っています。
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