むさじー

ロストケアのむさじーのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
3.6
<介護問題に救いはあるか>

ある朝の民家で、そこに住む老人と訪問介護センター所長の死体が発見され、担当する介護士の斯波が犯人として浮上するが、彼は介護家族から信頼される心優しい男だった。女性検事の大友は、当該センターが関わる老人の死亡者が異常に多いことから斯波を追求し、斯波は多くの老人を殺害したことを認めるが、自分がした行為は「救い」だと主張し大友と対峙する。
近親者が要介護になったら施設に頼りたいが、経済的負担に耐えられなければ介護地獄と生活苦の二重苦になってしまう。「公助」よりも「自助、共助」を謳う行政の支援は容易に求められず、さて、どうする?
本作の第1の問題点は、高齢者問題と貧困問題がゴッチャになっていること。斯波も父親の介護で経済的に行き詰った時、仮に生活保護が受けられていたら殺すことなく介護が続けられたかも知れない。私見だが貧困による死はあってはならないし、あくまで「公助」で救うべきだ。
第2の問題点は、殺人を肯定している訳ではないが、唯一の解決策が殺人で、殺人の是非を論議しているような印象を持ってしまうこと。遺族の意見が分かれ、人殺しと糾弾する人がいる一方で、秘かに救われたと思う人のことが描かれる。「家族の絆、それは呪縛にもなり得る」とセリフにあるように、介護者の義務感、被介護者の負い目が両者の関係を圧迫する複雑な問題があって「公助」だけでは解決しないが、当事者の意思に基づかない行為は救いではなく殺人であり犯罪であると強調すべきだった。
その点では、早川千絵『プラン75』は75歳以上の高齢者を対象に「本人の意思に基づく安楽死」制度を導入した未来の話だった。個人的には本人の意思が確認できるのであれば安楽死は認められていいと思うし、団塊世代が後期高齢者になりつつある現在、論議すべき課題として現実味を帯びてくる。
容易に解決策が見えない問いかけに考えさせられたが、社会的テーマに取り組みながら情緒面に傾いているのが気になった。役者の熱演に惹き込まれた割にはメッセージが響かなかったという印象だ。
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