むさじー

花腐しのむさじーのレビュー・感想・評価

花腐し(2023年製作の映画)
3.6
<ダメ男たちの不器用な愛と未練>

平凡な映画監督と心中した女優・祥子の遺体が浜辺に打ち上げられた。それからしばらくして、生前の祥子と同棲していたピンク映画監督の栩谷は、翔子が駆け出しの頃に付き合った脚本家志望の伊関と奇妙な縁で出会い意気投合する。異なる時期に一人の女性を愛していたことを互いに気づかないまま、二人は祥子と過ごした頃を語り合うのだった。タバコの煙の中で酒を飲みながら、男の後悔と未練と哀愁がない交ぜになった会話を延々と繰り広げ、切なくも滑稽なセックスシーンが挟まれる。
原作は芥川賞受賞小説だが、原作の世界観を踏まえながら、監督の思い入れある斜陽のピンク映画業界に置き換えて描いている。いわく“ピンク映画へのレクイエム”。ピンク映画という昭和の遺物にふさわしいゴッタ煮感があって、同時に若松プロ当時の荒々しさは失せ、未来はなくセックスは不毛といった寂寥感が漂っていた。
そして、昔のピンク映画と違って本作は、現在をモノクロにして回想シーンはカラーという斬新なもの。夢を叶えようと生き生きした過去が色鮮やかなカラーなのに比べ、夢満たされずウツウツと生きる今がモノクロなので、一層中年の悲哀を強くしている。
タイトル『花腐し(はなくたし)』は、花をも腐らせてしまう降りしきる長雨のことだとか。監督の弁では「雨月物語をやりたい」とのことだが、雨がもたらす幻想世界と俗世の営みがあまりにも乖離していて違和感を抱いた。更に昭和歌謡満載で、『さよならの向こう側』に託した惜別の思いが監督自身の“遺言”のように思えて切なさが増した。それでも、綾野剛の本気の熱唱には心動かされ、喪失の痛みに心の奥で共感している。
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