けんたろう

花様年華 4Kレストア版のけんたろうのレビュー・感想・評価

花様年華 4Kレストア版(2000年製作の映画)
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結局、アンコオルワツトが全部持つて行つちやふ御話し。


哀愁漂ふ梁朝偉の煙り。艶美極まる張曼玉の容姿。鮮やかに発色したる赤と、其の上に煌々とギラつく文字。
嗚呼……私しもう王家衛の虜である。
衣装は勿論のこと、其の指先、毛先……詰まるところ睫毛の一本いつぽんに至るまでが既に芸術品の域に達してをり美しい。其れらのスロオ・モオシヨンなどを用ゐて為さるゝ叙情的で且つ官能的な描写には、最早や夢うつゝとしてしまふ。引いても寄つても何を為ても美し。顔を映さぬ演出も亦た頗る好く、もう総べてのカツトに惹きつけらる。
加へて其の色彩感覚。香港美とでも云ふべきかしら、抜群のセンスとスキルとを以て作り込まれし背景及び雑感には、矢張り酔ひ痴れてしまふ。最早やワンカツトワンカツトが工芸品であると云うても過言ではない。何度でも云はう。総べてのカツトに惹きつけらる。

むろん演出のみならず、プロツトも亦た圧巻の一言に尽く。
練習のさなかで揺れ動く心。男の敗北、或いは女の幸福。垣間見ゆる格差と、越えがたき一線の太さ。誰れにも漏らされぬ秘密の想ひと、強き倫理感が故の擦れ違ひ。
彼れらの──特に彼れの──痛切なる心模様には、ひどく胸を打たる。演出だけではない。テエマも亦た至高なんである。故に此処まで心惹かれるんであらう。

……と、諸手を挙げて賞賛したかつたのだが、果たしてラストにだけは納得がゆかぬ。結局アンタ其れを撮りたかつただけなんぢやないのと訝りたくなるほどにしつこい彼のシインには、さすがに辟易してしまうた。成るほど壮大なシヨツトには昂奮もする。然しながら、本作と其の壮大さとは丸で関係が無いではないか。もつと云へば、別にロケエシヨンは彼処でなくとも良かつたらう。彼んの蛇足さへ無けれあ……と余まり好くない溜息が出てしまふ。

とはいへ、矢張り素晴らしい作品であることに変はりは無い。再び観賞の機会に恵まれたことを喜ばしく思ふ次第である。

取り敢へずカンボジアへ旅行した際には、オイラも積年の思ひを穴にぶち込むとせむ。