lotus

別れる決心のlotusのレビュー・感想・評価

別れる決心(2022年製作の映画)
4.6
永遠の恋に憧れる人はどのくらいいるのだろうか。

主人公ヘジュンは普段はソウルで優秀な警察官として働き、週末になると郊外の街、イポ(架空の都市名)の原発で、技術者として働く妻の元に、車で通う。

ヒロインは中国人のソレ。韓国人と結婚し、ソウルで介護士として働いている。

2人はある男が山から滑落して死んだ事件の参考人と、その取り調べを行う刑事として出会う。(この男がソレの夫)

取り調べ中に2人で寿司を食べるシーンがあるが、この時点で2人の仲が進んでいくことが示唆される。

寿司は本来、ヘジュンの妻が食べたがっていたものだ。
だが、妻の要望は叶えられることがなく(代わりにヘジュン手料理の鍋を2人で食べる)、妻が要望したものはソレに対して用意される。

食後に2人でテーブルを片付けるのだが、てきぱきと2人で片付けていくさまは、長年連れ添った夫婦のように息が合っている。食後に歯磨きをする時に、ヘジュンがソレの歯ブラシに歯磨き粉を出してあげるシーンは、2人の生活が警察署内で展開されているようだ。

これに反して、ヘジュンと妻が2人で家で過ごすシーンは、仲はいいものの、どこかチグハグになっていく。2人のセックスシーンも機械的であまり愛情を感じさせるシーンではない。(ちなみにこれが映画中唯一のセックスシーン)

セックスは体によくて、適度にすると長生きするんだって、と妻は言い、ヘジュンは行為の最中に、韓国の歴史ドラマに気を取られている。そのドラマはソレが韓国語を勉強するために家で見ているものだ。

別々のシーンではあるが、同じ空間にいるもの同士が心が通い合わず、別の場所にいるもの同士がドラマを通じて繋がっていることが示唆される。

ヘジュンはしばらくはソレが滑落死に関わっているのではと思い、警察官としての熱心さとも、個人的関心ともつかない形でソレの生活を監視する。双眼鏡で眺めるうちに、まるでソレのすぐそばにいるかのように感じられる。(実際に、そのように映像化される)

不眠症だったのに、見張りをしている車の中でぐっすり眠ってしまったところをソレに見つかり、「グッド・モーニング」と挨拶される。ヘジュンは署に戻った時、上機嫌で同僚に「グッド・モーニング」と挨拶をしてしまう。(好きな人の言葉が乗り移る)

このように、恋に落ちていく過程が鮮やかに描かれている。お互いの気持ちがある程度通い合ったところで、韓国の古い名所のようなところを2人で歩くシーンがあるが、建物はとても彩り鮮やかで、いつも霧でどんよりとしている妻が暮らす街、イポとは対照的だ。

韓国歴史ドラマ(恋愛もの)の中に迷い込んだようで、それぞれの家から別々に見ていた世界に、一緒に迷い込むような形になっている。

恋に落ちていく過程と、事件解決への過程が密接に関わっていて、不倫の関係であるという以上に、刑事と容疑者という関係も絡んでくる。(つまり、職業倫理の問題が絡む。仕事熱心なヘジュンにとって、ソレに惹かれる気持ちと、職務を全うしたいという気持ちは、結構シビアな天秤だ)

それでもお互いを思う気持ちは高まる一方だ。好きだという気持ちは「私のことを忘れないでほしい」という気持ちにも言い換えられるが、ソレが最後に取った行動、そしてそれに誘発されたヘジュンが取る行動で終わるラストは、映画だからこそのシーンとなっている。

この映画の中で2人の恋は永遠のものになったといえるが、映画の中でヘジュンは今も、そして永遠にソレを探し求めていると思うと胸が詰まる。

けれども、もう一度見て確かめたいと思わせる映画だった。
lotus

lotus