ケンタロー

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのケンタローのレビュー・感想・評価

4.0
耳無し芳一ならぬ
耳多しクレニック👂👂👂👂👂👂

予告で見た通称イヤーマンのビジュアルインパクトは圧倒的で、おぉ!クローネンバーグ監督の変態性は衰え知らず♪と大変興奮しましたが、本作は今まで以上に環境や医療といった社会問題に対しての問いを挿入管のようにズブリと挿し込んでくるのです。見る者の価値観や倫理観、道徳心に揺さぶりをかけてくるあたりは、ただの変態に留まらない【ド変態】として見る物見せてくれたって感じがたまらなかった…(*´Д`)

退廃的なディストピアを舞台としたSF作品の様相ではあるが、実のところクローネンバーグらしく《キッチリとして無秩序な》ボディホラー。

痛覚を失い感染症を克服(?)した人類の経緯に触れることは無いし、テクノロジーも進んでいるのか後退してるのかがとても曖昧。クローネンバーグらしい有機的な生物機械は言わずもがなだが、この世界で見られるテクノロジーの描写は極めて限定的。SFのサイエンスたる部分を意図的に排除しているんだろう。

座礁したタンカー船、朽ちた貨物列車(?)などはあるが他のビークルの類を見た覚えが無い…車とかあったかな? 移動はもっぱら徒歩であったように思う。登録所の資料も紙媒体でPCの類は見かけない。唯一、指輪型の映像記録装置が近未来感のあるガジェットだが、パフォーマンスを映すギャラリーの中には古そうなデジカメを使用している人もいたりする。

そこがどこの国なのか、いつの時代なのか?そういったSFを支える設定には一切触れることなく物語を展開させることで、本作はより寓話的で且つクローネンバーグらしいホラーに仕上がっている。

けれどSF要素も楽しみたい自分は【きっとここは、現代アートの島と呼ばれる瀬戸内海の直島みたいなアーティストやパフォーマーが集まる僻地なのだろう…】
【高齢化が進み老人は死に絶え、少子化が進んだ上、本来のセックスをする者が減少したことが拍車をかけて子供の姿が無いんだな…】とかとか、勝手な妄想で脳内補完を敢行したりして(笑)

観終えて思ったことは、この作品でクローネンバーグ監督が提示した人間の肉体の変容というものが、これまでのSF作品に有りがちなヒトとマシンの境界における葛藤を描く以外の道筋をもたらした点にある。

人工臓器に細胞の培養やナノテクノロジー、そして遺伝子治療、もうすでに神の領域に近付いているとも言える医療技術。肉体のほとんどを機械や代替物に置き換えていくことが可能になった時、ヒトがヒトであるラインはどこになるのか?『攻殻機動隊』のようにゴースト【魂】と言われる記憶と意思が遺れば肉体を失ってもヒトと言えるのか?というのは『ブレードランナー』など多くのSF作品でもテーマとされてきたモノ。

しかし、本作でクローネンバーグはダーウィンの進化論のようにヒトは環境に適応すべく従来とは異なる器官を自ら産み出す力があるかもしれないと描いている…。だとしたら、ヒトとは相当にしぶとい。まるで次々と型を変えていくコロナウイルスのようじゃないか…。

でも確かに、地球規模で自然界のことを考えてみれば人類は悪さしかしない悪性のがん細胞かウイルスみたいなもんだよな。どんなに自然界が人類を滅亡に追いやろうとしても、知恵と技術とそもそもの適応力を発揮し生き残ろうとするヒトの恐ろしさよ。まさにSDGsホラー(^_^;)

俳優陣の演技は素晴らしい。とくにクリステン・スチュアート!詰め寄りティムリンのヤバい感、さらにあの物憂げな眼差しで耳元で「手術って新しいセックスですよね…」なんてASMRよろしく囁かれたらソール・テンサーじゃなくても臓器摘出したくなっちゃうのであるw

はたして、試してみようと口にした“プラ”テインバーのお味は一本満足だったのか?はたまた一本即死だったのか?

えっ!ここで!?のラストなんだけど嫌いじゃないな…w