いの

帰れない山のいののレビュー・感想・評価

帰れない山(2022年製作の映画)
4.3
これは本当にスクリーンで観て良かった映画。山々が取り囲む静寂さや、心のひだを、スクリーンを通して受け取ることができて良かった。あらすじなんぞでは語れない、言葉では表現できないものが、豊富にある。山に積もった雪が、地下水脈となって心のなかを静かに満たしていくように。ひとつひとつ石を積み上げて、その積み上げた結果として人が佇むことのできる家が完成するように。石は語らない、山も語らない、動物も人の言葉は話さない。でも、実に多くのことを語っている。こちらから心を傾けさえすれば




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・まず子役ふたりが本当に良い。出会った二人が互いにとってかけがえのない存在となることを、言葉ではなくて映像で説得力をもってみせてくれるのがいい。だから青年になったふたりが再会したあとでも互いが必要ということがものすごくこちらに迫ってくる。


・ピエトロに父がふたりいたように(都会での父と、山での父)、父にはふたりの息子がいて(ピエトロとブルーノ)、ブルーノにもふたりの父がいる(実際の父と、ピエトロの父)。それぞれの山の頂の十字架はきっと父が建てたのかな(そこに日記があるという目印として)と想像した


・〝自然の美しさ〟とか〝自然の厳しさ〟と語ったら、たぶんこの映画の言いたかったことと真逆になってしまうと思う。安易に「自然」というなよ、というメッセージもあったように思う。わたしは何も考えずにとても安易にその「自然」という単語を使用してきたなあと思った次第


・人にとって何がいちばん辛いかというと、それは共に過ごした大事な人と、記憶を共有できなくなることだと思う。共有してきた記憶や想いを、もう共に語れなくなること。あるいは語らずとも〝わかる〟ことを、わかちあえなくなること。語り手のピエトロの思いがなんかわたしのなかでは静かに心のなかをさまよっている感じ


・『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』で鮮烈な印象を残したルカ・マリネッリは、ここでは全く違う役どころで、本当に凄い役者なのだと感じました。ブルーノを演じたアレッサンドロ・ボルギははじめましてだったけど、これから注目していきたいです。


・撮影が本当に素晴らしい。調べてないから本当のところはわからないけれど、とても丁寧に時間をかけてつくられた映画かなと想像する。
いの

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