むさじー

遠いところのむさじーのレビュー・感想・評価

遠いところ(2022年製作の映画)
3.6
<若年母子の貧困をリアルに>

沖縄のコザで夫のマサヤ、2歳の息子ケンゴと暮らす17歳のアオイは、生活のため朝までキャバクラで働いているが、マサヤが仕事を辞めてヒモ状態になった上に暴力を振るうようになる。そんな中、警察の手入れがあったことでアオイは店で働けなくなり、マサヤが貯金を持ち逃げし、更に暴力事件を起こして多額の示談金を求められてしまう。追い詰められたアオイは‥‥。
貧困、DV、風俗、自殺と、何とも重く、救いのないドラマだった。搾取する大人が悪いが、健気な少女たちが追い詰められて堕ちていく姿が不憫で、逃げ場のない残酷物語を見せられているようだった。
そして、なぜ逃げたり助けを求めようとしないのか、もどかしく思えた。貧困やDVもそれが常態化すると、辛くても我慢するのが当たり前になって、その状況から逃げたいという意欲が喪われるという。家族間のデリケートな問題だから周囲の介入は難しいが、児童相談所など福祉行政の配慮ある対応が必要と強く感じた。
それ以外に幾度も「何故?」という思いに駆られた。親友が自死を選んだ理由とか、父親とのねじれた関係の背景とかが見えない。悲惨な状況は丹念に描かれているのだが、登場人物の心の内や背景の描き方が足りなくて、アオイや周囲の人たちそれぞれの思いが伝わってこないのだ。ドキュメンタリーならいざ知らず、ドラマでありながら問題提起で終わったのが残念だった。
しかし映画には惹きつけるものがあり、花瀬琴音の熱演と存在感に圧倒された。だからこそ少しは希望の持てるメッセージが欲しかった気がする。
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