ひこくろ

私はたぶん絶対にかわいいのひこくろのレビュー・感想・評価

私はたぶん絶対にかわいい(2022年製作の映画)
4.1
ずいぶんと挑戦的な短編映画だった。

登場人物は車を運転する女と助手席の男の二人だけ。
カメラは後部座席に固定されていて、二人の顔すら見えない。
全編15分、ただ会話とラジオから流れる音が聞こえるのをワンカットで撮っている。

説明も何もないが、二人の会話から、なんとなくの事情はわかってくる。
二人はかつての恋人同士で、おそらくいまも関係がある。
でも、男には新しい恋人もいて、もうすぐ結婚を控えている。
修羅場と言いたくなるシチュエーションだが、二人にはもうそんな熱さはない。

まるで倦怠期の夫婦のように、会話は淡々としている。
内容も、どうでもいいようなことばかりだ。
お互いに冷め切っている。何かを諦めている。
それでも、女は勇気を出して「私のこと、どう思っていたの?」と聞く。
男は答えをはぐらかし、女もそれ以上は踏み込んでいかない。

恋愛の始まりは熱く燃えていても、終わりまでその熱が続くことはめったにない。
あったとしても、どちらか片方だけが、まだ恋愛にすがりついているというパターンだろう。
たいていはこんな風に、熱を失って、冷めて、消えるように終わっていく。
定点カメラのように固定された映像が、まるでドキュメンタリーのように、その恋愛の終わりの冷たい堅実を映し出している。

表情も見えない。感情が窺える台詞もない。
見えるのは二人の後ろ姿と、進むに連れて変わっていく風景だけ。
なのに、女の何とも言えない想いが伝わってくるのが、上手いなあと思った。

わずか15分。
そのなかに、現実がはっきりと切り取られている、と感じた。
ひこくろ

ひこくろ