鷲尾翼

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしいの鷲尾翼のレビュー・感想・評価

4.0
【まとめシネマ】#1101

【まとめ】
* 孤独に寄り添うぬいぐるみ
* 細田佳央太と新谷ゆづみ
* 優しすぎる人の感受性

本作を語る前にひとつ注意すると、本作で描かれるものは「ピグマリオンコンプレックス(人形偏愛症)」のような特殊性癖をメインに描いている作品ではない。人形に対する愛情の描き方は、それぞれの登場人物にあるが、セクシャルマイノリティに対するメッセージ性が強い作風ではない。

本作で描かれる「ぬいぐるみとしゃべる人」に共通するのは、孤独だ。「ヘッドホンをする」「他の部員がぬいぐるみにないを話しているかを聞かない」というサークルのルールのように、共感してもらいたくない孤独な一面や悩み、その生活に寄り添ってくれるのが、ぬいぐるみだと思う。

本作は、ある大学の「ぬいぐるみサークル」で出会った主人公の七森と女子大生の麦戸の物語。題名にピッタリ当てはまる登場人物はヒロインの麦戸だと思うが、少し変わった描き方をしているのが、細田佳央太演じる主人公・七森と新谷ゆづみ演じる白城だ。

「男らしさ」「女らしさ」のノリが苦手な主人公だが、本作では恋愛観に戸惑っていることが印象的だ。自身の恋愛対象がまだ不安定な中で、周りの優しさや孤独に身勝手に寄り添ってしまう一方的な優しさも、本作の題名である「やさしい」の意味のひとつだ

新入部員としてぬいぐるみサークルに加入する白城は、自分の生き方や価値観、思想や哲学が確立している。そのため、ぬいぐるみサークルとは別にキラキラした陽キャサークルにも所属しており、それぞれの良さを自分の生活に取り入れている。達観した余裕やあざとさは、見る人にとっては嫌悪感を抱くような人物だ。しかし、彼女なりに思うぬいぐるみとの向き合い方が、この作品の総括になっている。

本作で描かれる優しさは、優しすぎる。
終盤でヒロインの麦戸が吐露する心境は、強すぎる感受性に思うことだ。この悩みに共感出来る人は少ないだろう。だからこそ、優しい人の周りにはぬいぐるみが必要なのかもしれない。
鷲尾翼

鷲尾翼