鷲尾翼

哀れなるものたちの鷲尾翼のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
【まとめシネマ】#1091

【まとめ】
* エマ・ストーンの堂々たる演技力
* 不可思議な世界の経験の数々
* 奥深い題名の哲学と総括

エマ・ストーン演じる主人公・ベラは、自ら命を経った若い女性が天才外科医の禁断の手術によって奇跡的に蘇生した女性。「体は大人、中身は子供」という難しい役柄を演じることも充分難しいが、物語が進むにつれて数々の経験をして、人として成長する。その過程の中で、演じるものも変化する。絶妙な塩梅で成長する過程を自然に演じ分け、その全てを見事に演じる彼女は、堂々とした素晴らしさを放つ。

本作でベラが旅する世界も、不可思議な魅力に包まれている。中世ヨーロッパの気品なデザインの美しさをベースに、近未来の文明や濃厚な芸術性が癒合した世界観は、圧巻だ。そして、その世界の各地で、ベラは欲望のままに様々な経験や学びをする。食べる喜び、性の快楽、理不尽な社会性を経験し、素敵な大人と出会い哲学を知り、勉学に励む。この物語は、予想以上に素晴らしい教育のあり方が詰まっている。だからこそ、ラストのベラの姿に、稀有なものを感じてしまう。

改めて本作の題名の意味を考えると、非常に奥深い。

まず、この題名はベラ自身の言葉だと思う。ベラが出会った人の多くは、題名の通り哀れなものばかりだ。しかし、この「哀れなるもの」という言葉の中には、ベラ自身が自虐的に思っている主観的な意味が含まれていると思う。この作品を「映画」だと理解しているメタ的な客観性、ベラ自身が思う主観性。この題名の中には、多くの意味と哲学が詰まっている見事な総括だ。

そして、そんな言葉を放つベラに対して、僕はまだまだ哀れだ。
鷲尾翼

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