鷲尾翼

夜明けのすべての鷲尾翼のレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
【まとめシネマ】#1096

【まとめ】
* PMSとパニック障害
* 美しく寄り添う人間ドラマ
* 治療ではなく、向き合う

上白石萌音演じる藤沢は、PMS(月経前症候群)による苛立ちなどの症状に苦しむ女性。松村北斗演じる山添は、藤沢の同僚で、パニック障害を抱え、生きがいと気力を失っていた。互いの症状を理解出来ない日々が続くが、ある日をきっかけに互いが抱えるものに対して寄り添い始める。本作は、症状に苦しむ人の痛みをリアルに優しく映しているのはもちろん、症状を抑えるために服用する薬の副作用の苦しみも描いている。薬の効果が強すぎたり、薬が身近にない恐怖だったりと、実は映画やドラマでは描かれることが少ない部分であり、ある人の苦しみに寄り添うものでもある。

本作は、人間ドラマとしても素晴らしい。
まず、登場人物のほとんどが作中で描かれる内面的な苦しみや症状に理解があったり、その悩みに寄り添うことが自然に出来ている。これだけで、他の作品にはない素晴らしさがある。物語の構成や演出も、展開を誇張せず、目の前にある穏やかな未来、穏やかな速度で向かう素敵な仕上がりだ。

また、本作のパンフレットも素晴らしい。
出演者の対談やインタビューはもちろん、脚本を務めた和田清人と三宅唱が制作した登場人物の来歴や家族構成、本作の舞台である栗田科学株式会社の会社案内など、劇中では明かされなかった作品の詳細がこの一冊に詰まっている。本作を鑑賞して、パンフレットを購読して、初めてこの作品が完成していると思うほど予想以上に素晴らしい一冊でした。

本作は、PMSやパニック障害などの症状に対して治療や完治に向かうのではなく、そっと寄り添っているところを大切にしていると思う。「症状を知る」ということは、知識や情報ではなく、目の前の相手が抱えるものに対して優しく向き合うことだ。
鷲尾翼

鷲尾翼