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ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!のsanbonのレビュー・感想・評価

3.9
嫌味のない青春ムービー。

「ミュータント・タートルズ」の日本での最盛期といえば僕の世代だったんじゃないかと思うくらい、幼少期は求めるまでもなくどこかしこにこの亀どもが媒体問わずに存在していたイメージなのだが、今作を通して久しぶりに彼らに触れてみると驚くほどに作品に対する記憶がない事に気付く。

そんなこんなで、今作の第一印象は「ちっちゃい頃はあんなに好きだったのになぁ」である。

まあ、作品としての予備知識など必要ないくらい、今作は今作として独自の方向性を打ち出しているので、正直無教養でもなんら問題はないのだが、僕の場合は何色が誰とか、そもそも4人それぞれの名前なんだったっけなという雑念が終始グルグルしっぱなしだったので、むしろ中途半端に記憶があるよりも真っ新な方がより楽しめたかもしれない。

尚且つ、今作は落書き風がモチーフのようで「スパイダーバース」ともコンセプトがどこか似ているところがあるのだが、スパイダーバースが洗練された表現だとすると今作はかなり歪なテクスチャを採用しており、その為ミュータントよりも人間の方が気持ち悪くデザインされているのは地味に好みが別れそう。

特に、ヒロインポジションが作中屈指で美的要素が無いキャラとなっているのはポリコレ意識なのかなんなのか、スクリーンを通して「可愛くなければヒロインになれないなんてないんだよ」とお説教をくらっているような思想が見え隠れしていて個人的には苦手だった。

その反面、ミュータント側の思想は意外にもクリエイティブで、今作のミュータントにとって人間はあくまで憧れの対象であり、迫害の恨みを晴らすべく徒党を組むといったようなありきたりなものから、もう一段上の表現へとステップアップした展開を試みている。

その上で、今作には明確なヴィランを配さない選択をしており、尚且つ家族や親心を根底にストーリーを構築する事で、タートルズ側とヴィラン側に存在以上の共通点を見出し、共感や仲間意識を巧みに取り入れているのが上手いところ。

今作で描かれる騒動も、この仕組みがしっかりしているから実に嫌味がない作風を実現出来ている。

それに加えて、登場するキャラクター全てがラフな性格をしている為、重くなりがちな展開も努めて明るく表現されている徹底ぶりであるのが、非常に印象的であった。

確かに、言われてみればミュータント同士同じ立場と境遇なのだから、対立するよりも互いに理解し合える方が理に適ってはいる。

そして、ラストは皆大好き一般市民一丸となってヒーロー(タートルズ)をサポートする展開で、最後まで爽快感は抜群だ。

高度な作画技術を用いて描かれた落書きや、ストレートでありつつ一捻り効いた脚本など、一周りして逆に新しい作風が観ていて楽しい作品であった。
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