ヨーク

フォールガイのヨークのレビュー・感想・評価

フォールガイ(2024年製作の映画)
3.9
予告編の時点でそういう感じの映画だろうなーという気はしていたが、この『フォールガイ』は文句なしに楽しい映画でしたね。文句なし、とか言うとまるで欠点のない完璧な作品という印象を受けるかもしれないがそれは全然違っていて、別にそこまで凄い作品って感じではないのだが殊更に文句を言うような箇所も無くて素直に楽しい娯楽映画だったね、という感じのものである。娯楽映画、というのもポイントで、本作を観た人ならまぁ大抵の人には同意していただけると思うがこの『フォールガイ』という映画はただただ面白いシーンを繋げただけの映画なので深く心に刻まれるようなことはなく、この映画で人生が変わりました! なんて人も多分ほとんどいないだろうと思うしきっと三日もすれば内容を忘れてしまっているような映画であろう。
でもそれが良かった映画でもある。デヴィッド・リーチ監督の前作『ブレット・トレイン』もそういう映画であった。ちなみにデヴィッド・リーチはチャド・スタエルスキと共に俺が大好きな『ジョン・ウィック』シリーズに深く関わっている人でもあり、ブラッド・ピットのスタントマンを務めていた人でもある。ま、その辺は本作にも相当影響を与えていると思いますね。
というのもお話がスタントマンのお話しで、いわゆるハリウッド映画の内幕モノといった物語なのである。あらすじはある映画の撮影中のスタントで大けがを負い第一線から退いた元スタントマンが主人公。彼はもうハリウッドには未練なんて無いと言わんばかりに隠居していたのだが、かつて助監督時代に付き合っていた彼女が初監督作品を撮っていて彼に白羽の矢を立てたので現場復帰してくれとプロデューサーから連絡があり、浮かれて撮影現場に舞い戻るのだが主演俳優の失踪を機に陰謀めいた事件に巻き込まれていく…というものです。
ジャンルとしての漫画漫画や映画映画(漫画そのものを題材にした漫画や映画そのものを題材にした映画という俺の造語、恋愛が題材なら恋愛漫画や恋愛映画なのだから映画を題材にした映画は映画映画であろう)というものは大抵面白いと相場が決まっているもので、俺が生涯ベスト級に好きなフェリーニの『8 1/2』も映画映画である。なのでハリウッド内幕モノの本作も例に漏れず面白かったですね。ご丁寧に「トム・クルーズは別だけどね」というエクスキューズを残しながらもどう考えてもトム・クルーズをパロっているだろうという嫌な奴がトム・ライダーとかいう名前で出てくるのも笑いどころであろう。実際にスタントマンとしてハリウッド映画界で揉まれてきた監督としては色々と思うところがあったのかもしれない。作中で劇中劇として撮られる映画もモロに『スターウォーズ』と『マッドマックス』を足した感じなのだがそれも売れたものの再生産を繰り返す産業としてのハリウッドに対する冷めた目線があったりなかったり、まぁ批判と言えるほどのものではなくパロディに留まっているというところが良くも悪くも本作を軽く楽しめる映画にしている点だと思う。
まぁそういう映画ですよ。お話は二転くらいはするけど全然驚くような展開ではなくてむしろ予定調和というか物語というほどのものはない。ストーリーを観せるような映画ではなくて明らかにアクションとしての面白さを詰めたシーンを観せていくという映画でしたね。だってトム・クルーズ…じゃなかったトム・ライダーの家で日本刀を持った女に襲われるシーンとか爆走している車のデカいカーゴがぶっ壊れて引き摺られながらカーチェイスするシーンとか物語的には全く必要ないシーンだからな。面白いからいいんだけどそんなアクションシーンは無くても物語としては成立させられるよ、でもやるよ、っていうそこがいい映画でしたね。
というのもスタントマンが主人公の映画であり、監督自身もスタントマン出身ということなのでまぁスタントマン賛歌な映画なんですよ。きっと危険な撮影を成功させたけど物語的には必要なくなったからそのシーンをカットされた経験とかあるんじゃないかな、監督は! いやそこは俺の妄想ですけど、スタントアクターへの愛というか見せ場を作ってやろうという意志に溢れた映画だったのでちょっとそういう妄想もしてしまうというものですよ。ま、要はド派手なアクションシーンがどんどこ出てくるのでそれだけで面白い映画ではあります。
ただ何というか欠点も同じところにあって、とにかく見栄えの良いアクションシーンばかりを繋げた映画になっているので緩急があまりない。静と動でいうなら8割くらいが動の映画なのでせっかく出来の良いアクションシーンもそればっかり観ることになるからなんかメリハリがないなーという印象になってしまうんですよね。節々には主人公と元カノとの恋愛パートみたいなのも入るけどアクションパートを盛り上げるためのアクセントになっているかというとそうでもないなー、という感じでした。
その辺も含めて最初に書いたように、ただの楽しい映画だなって感じなんだけど、つまんないならともかく楽しいのなら上等だろうというところなので結果的にはやっぱ面白い映画だと思いますよ。ハリウッドの娯楽映画としてはそうそうこういうのだよと言える作品だと思う。
とりあえず車が猛スピードで吹っ飛んでいけば楽しいんだよという身も蓋もない真実が描かれている映画ですね。それ以上のものは何もないんだけど、まぁそれでも楽しいもんは楽しいんだからそれでそれでいいわな。それくらいの気楽さで観ましょうっていう映画でした。
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