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福田村事件のHKのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.3
ちょっと気になっていた程度でしたが、友人のゲキ推しで急きょ観に行くことに。
森達也監督と田中麗奈の来福舞台挨拶付き上映が2回あると聞き、せっかくならそれに行こうと思ったら5日前なのにチケットは既に完売。
仕方なく後日劇場に足を運びましたが、休日だったせいもあり朝からビッシリ満席でした。

本作は今からちょうど100年前の実話、関東大震災直後の日本人による大勢の朝鮮人惨殺と、そのさなかに起きた千葉県の福田村事件が描かれた映画です。
震災後の混乱に乗じ、朝鮮人が略奪や放火をし、集団で襲ってくるなどの流言飛語の中、香川から行商に来た薬売りの一行が朝鮮人に間違われて一般市民たちに惨殺されます。

しかし、この事件を日本人が朝鮮人に間違われて起きた悲劇ととると、問題の核心から大きくズレることとなります。

「朝鮮人なら殺してもいいのか?」

恐ろしいのはこの事件がほんの氷山の一角であろうということ。
関東大震災直後に朝鮮人および朝鮮人と間違われた中国人、日本人(聾唖者など含む)が虐殺された数は約6000人とも言われているそうです。
また、この機に乗じて日本政府は政府にとって好ましくない日本人の社会主義者らを多数処刑しています。

デマをばら撒くのは戦国時代からの戦術とはいえ、流言飛語をばら撒き世論を操作した政府上層部も、そのデマに踊らされた一般市民もなんと愚かなことをしてしまったのか。
そして、その間違いに気づきながら、それをただ見ていただけの者は間違いを犯した者と同罪であるとこの映画は突きつけてきます。
地元でもこの事件を今まで知らなかった人は少なくなく、複雑な思いの人も多いそうです。

近年は過去の過ちを認めず、または隠蔽し、無かったことにする風潮が強まっていますが、たとえ負の歴史でも、その失敗を繰り返さないことが重要であり、目を背けてしまっては何の成長も無いとドキュメンタリー出身の森監督(67歳)は言っています。

凄惨な事件を扱いながらも個々の人々の生活を細部まで描き、最初から最後まで片時も目が離せない力強さを持った作品でした。

多くの名優たちの中にあって水道橋博士が意外にも健闘、ひさしぶりに見たピエール瀧も変わらぬ安定感。
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