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福田村事件のsunaimaiのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.7
森達也監督の著作をずっと読んできましたが、これまでの主張が全て込められた、集大成的な作品です。また、制作発表の時だったか、監督は皮肉を込めて「ハリウッドなら飛びつくテーマだと思う」というような発言をしていました。本当にリメイクの話がきてもおかしくない出来栄えで、日本版『ホテルルワンダ』の誕生といっても良いでしょう。

脚本をはじめとする制作陣とは衝突したことも多かったようですが、指摘される性愛描写や説明過多な台詞も、違和感には至らない程度。事件の内容を詳しく知らなくても、ドラマとして成立しているので、観た後でいろいろ感じ、考えられる作品です。監督のフィールドであるドキュメンタリーではなく、実話ベースの物語という形を選択したことで、作品への間口が広がり、ヒットに繋がったのでしょう。

俳優陣の演技も、この作品のテーマを伝えんとする熱がこもっていました。中でも水道橋博士が大健闘。普段から森達也作品をはじめとするドキュメンタリー系に造詣が深いこともあり(田原総一朗の初期作品のDVD監修等)、彼の演じる元軍人が振りかざす建前論が、逆説的に森監督の主張(警鐘)を伝える役割を果たしています。これは新聞社の部長役であるピエール瀧も同じで、ラジカルなイメージとは真逆の配役から発せられる台詞が、観る者の憤りを引き出していました。

冒頭に挙げた『ホテルルワンダ』の他にも、虐殺を行った権力者にその「英雄的」行為を実録映画として再演させる『アクト・オブ・キリング』、麻薬マフィアの横暴から身を守るために組織した自警団が暴走してゆく『カルテルランド』といった名作の系譜に連なるレベルの作品です。
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