【殺人者たる大罪を問う】
関東大震災後に発生した虐殺事件、通称"福田村事件"を映画化した作品。
まず、関東大震災発生百年後の今に、本作を上映したことの社会的意義は強いと思う。
でも、僕はこの映画を鑑賞してとても腹が立った。
僕が感じた違和感は二つだ。
本作は、謂れのない流言飛語が飛び交う中で、人々がいかにして疑心暗鬼になっていき、凶行に及んだかをこってりと描いているが、悲劇が起きた後にどうなったのかという、凶行に対する報いや償い、被害者の救済といった結がバッサリ省かれている。
この事件は長い間黙殺されたのは事実だが、ならその事実も映画の中に盛り込めたはず。
というか、事件を今に繋げる為に本作を制作したのであれば、今を映さなければならなかったのでは？
仮にこのような悲劇があったという事実だけを伝えたいのであれば、事件を第三者から読み取るドキュメンタリーとして制作すればよかった。告発になるから。
でも、この物語は主に加害者側を主体にして描いておきながら、その末路を映していないので、どのように着地させたいのかが凄く曖昧。
怒りを力に変えて社会を変えようと伝えなければ意味がない。
二つ目。ヒロインの言動。
本筋に関係ない不倫シーンを脚本に組み込んで、しかもした側のヒロインがされた側の主人公をずっと責め続けていたこと。
まるでお前も悪いと言ってるようで非常に気持ち悪かった。
なぜ、このように仕上がったんだろう。
僕は色々と考えている内にある騒動を思い出した。
それが数年前に日本映画界を騒がせた『童貞。をプロデュース』事件。
（※ここから先は性暴力の描写が含まれますので注意してください）
知らない人にこの事件を要約すると、2007年に『童貞。をプロデュース』という二人の青年を映したドキュメンタリー映画が制作されたんですけど、公開十年後の舞台挨拶で出演者の一人が「劇中で性行為の強要があった」と告発する事態が発生したんですね。
（※詳しくは下のリンクの記事と動画を見てください）
https://getnews.jp/archives/2308598
https://youtu.be/doYq9foEOhg?si=6TpNVyRVfSAJRRiD
実は、本作を監督した森達也氏もその騒動の渦中にいて、彼は事件が本格化した時にこういうツイートをしたんですよ。
"この件に関しては、ドキュメンタリーを仕事にする立場としてとても嫌な返り血を浴びる可能性がある。でも「松江哲明が日本映画界にいる限り僕は攻撃をやめない。松江哲明を守る日本映画界が許せないから」との発言が事実ならば、映画監督からの引退を強要しているならば、もうこれ以上は看過できない。"（原文ママ）
確か僕はこのツイートを見たとき、激しい怒りを感じたのを覚えている。
誰もそんな話してません。
映画監督が撮影中に性犯罪を犯したのではないかという話をしているのに、何故彼のキャリアの話にすり替えるんですか？
もうキャリアとか映画とかそういう段階の話ではないですよね。
このような捻くれた擁護は彼だけではなく他の映画関係者にもちらほらあって、僕はその時に、被害者を十年間笑いの種にしてきた自分も非難されるんじゃないかという彼らの恐怖心を感じたんですね。
改めて言うけど、SNS等で差別的な投稿が絶えず続く今の時代において、本作を上映したことは社会的に有益であると思う。
人は悲劇を通して何かしら学べるから。
でも、本作は人が持つ加害性に目が行きすぎだ。
いつ自分が差別に加担してしまうか、そしていつ報復されてしまうか。そんな加害者側の保身のことに重点を置きすぎていて、目を背けるなと伝えていながらもある意味で逃げに走ってる。
彼らの殺人者たる大罪を問うべきだ。
だって彼らの犯行は許してはいけないから。
泣いて謝れば済む話ではないし、加害者側が自己憐憫を続ける状態なんて許す許さない以前の問題でしょ。
撒いた種は刈り取れよ。
「差別はいけない」なんて言葉は本当は誰だって言えるんだよ。
でも加害者側が「自分達は被害者で差別されている」「何で自分達だけが仕打ちを受けなくてはならない」と屁理屈垂れ流してたら、「差別はいつの時代でも起こりうる、仕方ない」と開き直ったらどう返す？
悲劇を繰り返さないと主張するのであれば、そういう間違った被害者意識にも踏み込めよ。
僕は映画だろうと現実だろうと今の現状を許したくないんですよ。
それで、監督や他の映画関係者は『童貞。をプロデュース』事件のことをどう思ってらっしゃるんですか？
今はそういう問いしか湧きません。
【追記】
僕は、この映画を称賛すること自体は悪くないと思っています。
ただ、こういう騒動があったんですよという事実だけは知ってもらいたいです。
