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フェイブルマンズのArxのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.4
これは「業」の話である。スピルバーグといえば未だに世界で最も有名な映画監督であり、それは言い換えると個人的なビジョン(見せたいもの)によって世界中の観客を動かしてきたと言える。しかし、今作では母親の不倫という「自分が見たくないもの、または他人に見せたくないもの」が彼の人格形成期において破壊的な影響を及ぼしたことがテーマとなり、そしてそれが熟年期のスピルバーグの「意図した通りの演出」として劇中に現れている。今作はそのような演出の力量と監督の個人的トラウマとしての未だ消化しきれない部分が激しく格闘しながら映画として強引にローリングしていくところを見るのがスリリングだ。

ラスト、いくら伏線が効いているとはいえあれほどドロドロした地獄のようなストーリーを「カメラの動き」一つで強引にハッピーエンドっぽく見せようとしている。正直これだけで今までの話がチャラになるとはまったく思えないのだが、ここまで徹底しているとエンドロールでは乾いた笑いしか出てこなかった。大傑作。
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