カツマ

フェイブルマンズのカツマのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.4
スピルバーグの映画が好きだ。彼の映画は常に映画を撮る楽しみに満ちているし、好奇心が旺盛で、童心に溢れ、そして常に新しい。彼はいつだって映画が好きであることをその作品の中で反映させてくれるし、永遠の映画少年なのだと思う。そんなスピルバーグが本当に一介の映画少年だった頃、そこには愛おしくも平凡でありふれたドラマがあった。破天荒な母、優しい父、スピルバーグの人生の出発地点がここには刻まれていた。

今作は第95回アカデミー賞で作品賞など主要部門にもノミネートされ、残念ながら受賞はならなかったが高い評価を受けた作品である(ゴールデングローブ賞ではドラマ部門の作品賞などを受賞している)。スピルバーグの自伝的な作品という触れ込みで、彼の特に両親とのエピソードを物語化。エンドロールの最後には母リアと父アーノルドに捧げるというメッセージが届けられた。少年スピルバーグことフェイブルマンはどのように映画の世界へ没入していくことになったのか。非常にパーソナルで主観的。70代も後半に差し掛かったスピルバーグの憧憬と情熱が映像の中で蘇る。

〜あらすじ〜

第二次世界大戦後のアメリカ、アリゾナ州。まだ幼いサミー・フェイブルマンは、ピアニストの母ミッツィ、エンジニアの父バートと共に初めて映画館に足を運んだ。鑑賞した映画は『地上最大のショウ』。サミーは劇中の電車と自動車の衝突のシーンに夢に見るほどに心酔し、誕生日プレゼントで買ってもらったSL模型をミニカーに衝突させたりして遊んでいた。その様子を見た母は、衝突したところをカメラに撮ってフィルム化したものをサミーにプレゼント。それ以降、サミーはカメラでの撮影にハマり、妹たちとワイワイと騒ぎながら、映画監督の真似事をするようになった。
そんなサミーを見て、理系の父は複雑な気持ちになるも、自由奔放で芸術家肌の母はサミーの映画の趣味を応援するようになり・・。

〜見どころと感想〜

今作はスピルバーグにしては比較的オーソドックスな人間ドラマである。しかし、そんな作品だからこそ、スピルバーグの映画作りの巧さが際立っており、退屈させない趣向と滑らかな物語運びで2時間半を一気に見せ切ってくる。ジョン・ウィリアムズの流麗な音楽だったり、長年、スピルバーグ作品を撮ってきたヤヌス・カミンスキーのカメラワークだったりと、プロのお仕事が随所に炸裂しており、人間ドラマながら極上のエンタメ作品に仕上がった。少しずつ映画に目覚めていく少年が映画の世界の入り口に立つまでを、感傷的な手ほどきで丁寧に編み上げている。

主演のガブリエル・ラベルは正に大抜擢のキャスティング。所謂、普通の映画好きの少年という雰囲気が上手く出ており、ハイパーな才能をビシビシ感じるキャラクターではない点がスピルバーグの人柄を予感させる。そんな若手の彼を引っ張り上げるのが演技派のミシェル・ウィリアムスとポール・ダノ。彼女たちの演技力の高さが今作をシリアスにしてくれるし、そこにセス・ローゲンが入ることで重くなり過ぎることを防いでくれている。ワンポイントで映画監督のデヴィッド・リンチ(貫禄が凄い!)、更にはジャド・ハーシュ(良いキャラ!)らが登場。特に後者は短い出演時間ながらもオスカーにノミネートするという快挙を成し遂げている。

この映画を観ていて、スピルバーグの映画の撮り方は映画の基調であり、映画好きのDNAに組み込まれた『良質な映画の王道』なのだと思った。特別トリッキーなことをしてるわけではない。しかし、分かりやすさと優しさ、入りやすさ、それらはスピルバーグの映画作りにいつも登場してくる要素だし、この映画でもスピルバーグらしさは常に発散されている。エンタメ映画の見本であり続け、時に開拓を行い、アカデミー賞にも送り込む。スピルバーグという人の凄さをこんなにもパーソナルな作品で感じられるとは思わなかったけれど、あくまでこれは両親に捧げられた作品。いつも優しい懐かしさが寄り添っていて、古ぼけた写真のようにそっと部屋の隅に飾られているような作品だった。

〜あとがき〜

オスカーへのノミネートの多さとスピルバーグの自伝的な作品ということで、兼ねてから観たかった作品をようやくの鑑賞です。本当は映画館で観たかったですが、3月は観るものが多過ぎてエブエブを優先したのを思い出しました(笑)

そして、さすがはスピルバーグ、映画作りが抜群に上手い。物語の作り方、発展のさせ方、無駄のないシーンを連続させ、ラストにはしっかりと感動的なおまけまで待機させる。いつになく作り手の感情が滲んでいるように感じましたが、総括するといつものスピルバーグ印は濃厚でしたね。まだまだ彼は映画を作り続けていくんだろうなぁと思わせるラスト。地平線はいつだって彼の引きたい場所に伸びている。
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